短時間勤務や在宅勤務など多様な働き方が広がる中、社員の事情を踏まえて働き方の選択肢を個別に用意する企業が出てきた。離職回避にとどまらず、オーダーメードの働き方で成績を伸ばした人もいる。企業が一歩踏み出して社員の活躍を後押しすることで、職場の魅力や社員の意欲、成果の向上を呼び込んでいる。
長野県東部の小諸市。8月のある月曜日の朝7時すぎ、人材サービスのネオキャリア(東京・新宿)で企業の採用支援を担当する平山希さん(40)は、幼稚園児の長女と長男の送迎を隣家に住む夫の両親に頼み、車で約15分の駅へ。7時台の北陸新幹線に飛び乗った。
車内では朝食を取りながら当日の予定を確認して過ごす。家族の食事の献立づくりなど「家事」もこなし、約1時間半後東京に着いた。喫茶店で時間調整後、担当する営業先に向かった。
平山さんは週4日、長野県の自宅から新幹線で都内へ通勤し、残り1日は在宅で勤務する。出産前は都内在住で、新宿の本社で働いていた。夫は家業を継ぐため先に長野に移住しており、2013年に長女が生まれたときは夫に合流するため退職するつもりだったという。
「東京で1人で子育てするのは考えられなかった」という平山さん。「仕事も家庭もどっちも続ければいいよ」と当時の上司が提案したのが、同社にはいずれも前例のなかった新幹線通勤と在宅勤務の組み合わせだ。
通勤時間が長い分、いかに時間を有効に使うかがカギになった。細かい予定もすべて携帯に登録しアラームを合図に次々にこなす。東京で訪問した顧客の要望整理は帰宅途上、新幹線内で即日処理するなど「1分でも無駄にしたくない」(平山さん)という。
第2子が生まれてからは管理をさらに徹底。家事は夫と分業し、夜は子供とふれあう時間も取る。長距離通勤と2人の子育てをしながら営業成績は飛躍的に向上し、18年には社員3千人から4人が選ばれた年間MVPの一人となった。
結婚や出産といったライフイベントと仕事の両立は、働く女性が直面しやすい壁だ。アプリ開発を手掛けるエムティーアイでエンジニアとして働く岸夏帆さん(28)は19年4月から関西の自宅で勤務し、東京の本社にはほとんど出向かない。完全在宅勤務を始めたきっかけは、関西に住む恋人との結婚だ。
同社は短時間勤務やフレックス勤務制度があるが、在宅勤務は子育てや介護といった事情を抱える社員が対象だった。岸さんは本来は当てはまらないが「会社にとって入社6年目の貴重な人材で、本人に仕事を続けたいという意思があった。双方にとってベストな対応を取った」と小出誠人事部長は説明する。
岸さんはQRコードの決済サービスの開発部門に所属し、会議はテレビで、同僚らとの連絡にはチャットツールを使う。「業務の進め方は本社にいるときと特に変わらず、違和感もない。通勤時間がなくなった分、効率も上がった」(岸さん)