転倒や膝の痛みを予防したければ、下半身の筋肉を鍛えること。特にスクワットは脚を伸ばす筋肉と曲げる筋肉の両方を鍛えられるうえ、垂直方向に刺激が加わるため、前述したように骨量も増やしてくれるいい運動だ。太ももの大腿四頭筋は人体最大の筋肉なので、少し鍛えるだけでトータルの筋肉量が増えるというメリットもある。参考のために中江さんがお勧めする3種類の運動を紹介しよう。
それほど強度は高くないので、回数を減らせば高齢でもできるはずだ。
【1】クオーター(1/4)スクワット
(2)3秒くらいかけて、膝を45度(直角の半分)まで曲げて腰を落とす
(3)3秒くらいかけて、膝を伸ばす
(4)体力に応じて10~20回繰り返す
クオータースクワット(膝の角度が45度)にする一番の理由は「過度な膝への負担を減らす」ため。また、背骨が屈曲している高齢者がいきなりハーフスクワット(膝の角度が90度)をすると、体をより前方に曲げなければならず腰への負担が増大する、45度から始めると正しいスクワット姿勢を身に付けやすい、といった理由もある。
クオータースクワットで負荷が軽いと感じる場合は、胴体と腕の角度が90度になるよう両手を体の前方に出し、ペットボトルを持ちながら実施するとよい。あるいは、クオータースクワットを数週間実施してから、余裕があればハーフスクワットに段階を上げるのもいいだろう。
【2】かかとを上げる運動
(2)かかとを上げて爪先で体重を支え、頂上でいったん止めてから戻す
(3)20~30回繰り返す
【3】爪先を上げる運動
(2)爪先を上げてかかとで体重を支え、頂上でいったん止めてから戻す
(3)20~30回繰り返す
「かかとを上げる運動」ではふくらはぎの腓腹筋とヒラメ筋が、「爪先を上げる運動」ではすねにある前脛骨筋が鍛えられる。前脛骨筋が強くなるとつまずきにくくなるため、「爪先を上げる運動」は特に転倒予防の効果が高いという。
運動ではダンスも注目されている。
「普通のリハビリは単調なので、飽きてしまってなかなか続かない。だけどダンスは覚えると楽しいでしょう。最近になって、同じ動作を繰り返すことで脳の神経がつながることも分かってきました。ダンスと太極拳は、とりわけ転倒予防の効果が高い運動であるといわれています」(林さん)
原宿リハビリテーション病院でもオリジナルのダンスを開発している。回転する動作と関節を伸ばす動作が多いことから、くるくるのびのび、という意味で「くるのびダンス」と命名した。10種類の動きがあるが、すべて行っても1分しかかからない。117人の入院患者に協力してもらって試験したところ、やはり転びやすさは確実に改善したという。
年をとってからも自立した生活を送るには、何歳になっても「自由に歩き回れる」能力をキープすることが基本だろう。若いうちから骨と筋肉の“貯金”を心がけた生活習慣を持ち、いつまでも豊かで充実した人生を過ごしたいものだ。
(文 伊藤和弘)
