鍛えるべきは下半身の筋肉 谷本流・究極のスクワット
加齢とともに衰える筋肉の重要性を痛感しても、まず何を始めるべきか分からないという人は多いだろう。そんな疑問に対して、近畿大学准教授の谷本道哉氏はこう答える。「何より鍛えるべきは、体重を支えて立つ・歩くなどの基本的な動作に使われ、日常生活に必要不可欠な下半身の筋肉。実は、こうした重要な筋肉ほど老化の影響を受けやすいため、しっかり貯金しておくべき」。太ももの大腿四頭筋の場合では、80歳になるとピーク時に比べて半分程度にまで激減するという。年齢による活動量の低下も相まって、筋肉量の減少は加速していくのが実情だ。
ただし、ウオーキングやラジオ体操といった軽度の運動では、下半身の筋肉の衰えを防ぐには不十分。日常生活では得られない強い負荷をかける筋トレによってこそ、加齢によって減少する筋細胞の数を増やし、筋線維を太くして筋肉の"貯金"が可能になる。
下半身の筋肉のうち、谷本氏が特に重要だと指摘するのが、次に紹介する4つの筋肉だ。そこで今回は、これらを効率よく鍛えて筋肉貯金を増やすための3種類の筋トレ法を谷本氏に伝授してもらった。
●大殿筋(尻の筋肉)
…太ももの大腿四頭筋と共に体重を支え、立つ、歩くための基礎となる。体積も四頭筋と同様に最も大きく、加齢により減少しやすい
●大腿四頭筋(太もも前面の筋肉)
…人体で最も大きい筋肉の一つ。主に膝を伸ばす際に働き、体を支え、動かす動作の中心的な役割を担う。加齢による衰えが進みやすい
●腓腹筋(ふくらはぎの筋肉)
…主に、足首のスナップを利かせて後ろに蹴る働きをする。スイスイ歩くには欠かせない筋肉だ
●腸腰筋(下腹の深部にある筋肉)
…背骨・骨盤と脚の大腿骨をつなぐ筋肉。主に歩くときに脚を前へ振り出すほか、立ち姿勢で骨盤を前傾させる働きも担っている
谷本氏が「これだけはやるべき」と力を込めるのが、「スクワット」だ。「立って体重を支えることを第一に考えると、太ももの大腿四頭筋と、尻の大殿筋をまずは優先して強化したい。正しいフォームでスクワットを行うと、これらを効果的に鍛えられる」(谷本氏)。
一般にスクワットは広く知られる定番の筋トレだが、上半身が起きて膝が前に出てしまうなど、残念なフォームによって効果が十分に得られていないことが多い。
そこで有効なのが、谷本流の「究極のスクワット」。椅子に腰掛けるように上半身を前側にお辞儀させながらしゃがみ、太ももを最低でも床と平行に、できればそれよりもしっかり下げて、強い負荷をかけることがポイントだ。「多くの人が自分で思うほど腰を落とせていないのが実情。深くしゃがむ際には、できるだけ腰が丸まらないように背筋を伸ばしておくことが必要」と谷本氏は力説する。
コツは両膝と爪先を左右15度くらいに開くことだ。股関節の構造上、深く曲げられるようになり、腰が丸くなることも防げる。また、「膝を前に出さない」ことも大切。上体を前傾すれば膝は下がる。効果を上げるだけでなく、膝への負荷を和らげる意味もある。
【究極のスクワット】
「筋肉体操」の谷本氏によるスクワットの極意はこれ(下図参照)! 筋トレの効果を最大限に得られる方法だ。
「速筋」を効率的に狙い撃ち!スクワット効果を最大化
スクワットによる効果を高めるコツは他にもある。筋肉には、大きく分けて「速筋」と「遅筋」という2種類がある。速筋は収縮速度が速く、瞬間的なパワーを発揮するのに対し、持久力に優れているのが遅筋だ。
「高齢になると転倒しやすくなるのは、バランスを取るために必要な筋肉が衰えるため。そしていざバランスを崩したとき、瞬時に反応して体を支えられるかどうかは、速筋の力によるところが大きい」と谷本氏。しかも、加齢によって筋肉が減少する際、速筋の減少がより激しいことも分かっている。
では、筋トレで速筋を効率的に増やすにはどうすればいいのか。
ポイントは2つある。一つは、ある程度の大きな負荷でオールアウトさせる、つまり限界まで追い込むこと。数十回やってもキツく感じないなら、それはフォームをごまかして負荷が足りていない可能性も。もう一つは、「下げる動作」をじっくり丁寧に行うことだ。ストンと速く落としてしまうと、速筋にあまり刺激が加わらない。
続いて組み合わせたいのが「ランジ」だ。太ももと尻、さらに下腹深部の腸腰筋も同時に鍛えられ、スクワットよりも強度の高い筋トレだ。ここでも「上半身を前傾させる」「膝を前に出さない」ことがポイントとなる。「後ろの脚の膝はより深く、床にギリギリ近づけることで、最大限に負荷をかけられる」(谷本氏)。また体を戻す際は、後ろの脚をしっかり意識したい。
【効かせるランジ】
片脚ずつ前に出し、下半身の筋肉をまとめて鍛える高強度のトレーニング(下図参照)。バランス能力も養える。
いつまでも元気に歩ける体を目指すなら、ふくらはぎの腓腹筋を鍛える「カーフレイズ」も重要だ。手をつく場所があればいつでも手軽にできるので、隙間時間を使ってぜひ習慣にしたい。
【壁トレ・カーフレイズ】
スイスイ歩くためにも重要なふくらはぎの筋肉。爪先の使い方ひとつで、負荷を自在に調節できる(下図参照)。
これら3つの筋トレではいずれも、レベルに応じたバリエーションを紹介している。無理に強度を上げる必要は無いので、自分の体力に合わせて正しいフォームを意識し、負荷をかけていくことが肝要だ。
近畿大学生物理工学部准教授。1972年、静岡県生まれ。大手建設コンサルタント会社を退社後、東京大学大学院に入学。順天堂大学などで博士研究員を務め、2013年から現職。『みんなで筋肉体操語録~あと5秒しかできません!』(日経BP)など著書多数。
[日経トレンディ2019年7月号記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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