オペラ歌手飛び立て 池田理代子さんが貯金ゼロの理由編集委員 小林明

――その言葉を今も実践しているわけですね。

「そうです。クラシック音楽の中でも特にオペラ歌手は生活するのが大変なんです。若い人は大きな役につけるまで、みんなアルバイトをしながら頑張って食いつないでいます。ミュージカルはまだいいんですよ。1カ月も続く公演なんてありますから。でもオペラの公演はせいぜい1日か2日くらい。マイクを使わないので長期間公演するのはかなり難しい。たとえば、稽古期間が同じように3カ月でも、公演期間が圧倒的に短いから若いオペラ歌手はなかなか食べていけない。なるべく早い時期に舞台に立ち、歌うという経験が必要なのに、いつまでたっても機会が巡ってこない。だから、若い人に舞台に立つ機会を提供し、隠れた才能を発揮してもらいたいと思ったんです」

■映画「わが命つきるとも」、人間は命をかけて思想信条を貫く

「実はもう1つ、私の生き方を決めた映画があります。アカデミー賞6部門(作品賞、監督賞、主演男優賞など)を獲得した『わが命つきるとも』(1967年公開)。16世紀の英国を舞台に国王ヘンリー8世の離婚問題を巡り、離婚を禁ずるカトリックの立場から国王と対決し、処刑されたトマス・モアの生涯を描いた素晴らしい名作です。この映画を通じて『人間は自らの思想信条のために命をかける動物なんだ』と初めて教えられました。今まで個人的に命をかけるような場面に出くわしたことはないけれど、『そういう生き方をしたい』と私に決心させるほど大きな影響を受けました」

アカデミー賞6部門を独占した名作映画『わが命つきるとも』に感銘を受けたという

――自分はどんな人間だと自己分析していますか。

「『今まで好き勝手に生きさせてもらったな』という気がします。親に様々な心配をかけてきたし、ドイツに留学したり、声楽家になるために音大に入ったり……。いつも私を支えてくれた妹には心から感謝しています。事務所の経営が苦しい時、妹は自腹を切ってやりくりしてくれたようです。自分でもやりたいことが色々とあっただろうに……。感謝してもしたりないくらいです。現在、新たなオペラの制作に取り組んでいます。ずっと作り続けてきた短歌も作品集としてまとめる準備をしています。今後も残された時間を様々な形で才能を持った若手のために尽くしたいですね」

(聞き手は日本経済新聞 編集委員 小林明)

※次回の後半は幼少時代の思い出、学生運動やアルバイトに明け暮れた大学時代、漫画家を目指した経緯、「ベルサイユのばら」の誕生秘話などについて回想します。

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