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(C)2019映画「引っ越し大名!」製作委員会

脚本の執筆と並行して、キャスティングを進めた。春之介役に星野源を提案したのは矢島氏だ。

「最初は日の当たらない書庫の中、でも最後は外に出て自分の生き方を貫く。そういう“引きこもり侍”の姿が、星野源さんでパッと浮かんだんです」(矢島氏)

この案に犬童監督も賛成した。

「僕は嵐主演の『黄色い涙』(06年)の音楽をSAKEROCKにやってもらったので、いつも楽しそうに笑っている普段の星野さんを知っている。『箱入り息子の恋』(13年)で見せたシリアスな演技も良かったです。その2つの星野さんが自分の中で自然にミックスされて、春之介にすごく合ってるなと思いました」(犬童監督)

星野のキャスティングが決まり、鷹村に高橋一生、於蘭に高畑充希という映画初の組み合わせも実現。京都・太秦の松竹撮影所や姫路城などでロケを敢行して、映画『引っ越し大名!』は完成した。

中学生も味わえる時代劇に

犬童監督は「映画全体のトーンを、子どもの頃に見ていた時代劇のようにしたかった」と話す。

「『眠狂四郎』や『大菩薩峠』のような正統派の暗い時代劇も見ていたけど、それとは別に、沢島忠監督の『一心太助』シリーズやマキノ雅弘監督の『次郎長三国志』なども見ていて。特に沢島さんの時代劇は、突然、平気で歌ったり踊ったりするんですよ。ミュージカルを昇華していて。僕はそういう時代劇に憧れがあったし、後半の引っ越しシーンを普通につなぐだけじゃ面白くないと思ったので、歌に乗せて時間経過を示していこうと考えたんです」(犬童監督)

そうして作った『引っ越し唄』を全員で歌いながら行脚するユニークなシーンを追加。振り付けを野村萬斎に託し、ミュージカルテイストもある時代劇に仕上がった。犬童監督は本作で、時代劇のファン層拡大も意識したという。

「目指したのは、シネコンを出た中学生たちが、ハンバーガーを食べながら話題にするような映画。深刻な顔で斬り合うような時代劇は、放っておいても上の世代が作ってくれる。次世代が時代劇を作りやすくするためにも、客層を下に広げることが自分の一番の役割だと考えていました」(犬童監督)

11月には堤真一と岡村隆史が主演の『決算!忠臣蔵』(松竹)も控える。時代劇の新たな潮流を生んだ土橋氏は「『翔んで埼玉』や『カメラを止めるな!』のように新鮮な面白さを生み出して、若い人に見てもらえる時代劇をどんどん作っていきたい」と語る。今後も様々なタイプのユニーク時代劇が誕生しそうだ。

『引っ越し大名!』
(C)2019映画「引っ越し大名!」製作委員会

江戸時代、姫路藩主の松平直矩は、幕府から突然の「国替え」を命じられる。それは姫路(兵庫)から日田(大分)へ、1万人の藩士とその家族全員を600kmも移動させるという「藩まるごとの引っ越し」だった。とはいえ藩の財政は厳しく、費用はほぼゼロの状態。そこで白羽の矢を立てられたのが、本の虫で人と話すことが苦手な書庫番の片桐春之介。「本ばかり読んでいるのだから、知識が豊富だろう」と「引っ越し奉行」に任命されてしまった春之介は、前任の引っ越し奉行の娘・於蘭に教えを請い、幼なじみの武芸の達人・鷹村源右衛門の力を借りて、悪戦苦闘しながら費用や人員の削減を推し進める。移動距離600km、カネなし、人なし、経験なしの引っ越しプロジェクトの行く末は……?(公開中/配給・松竹)

(ライター 泊貴洋)

[日経エンタテインメント! 2019年9月号の記事を再構成]

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