私の産み時はいつ? 年齢で変わる両立の悩みと選択肢
ライフイベントを前に働く私たちの、頭の片隅にある「産むなら、いつ産む?」問題。自分らしく産む、働くを実践している先輩たちに、それぞれの正解を探すためのヒントを聞きました。
20代、30代の女性がキャリアとライフを考えるとき、「子どもを持つか、持たないか」「産むならいつ?」を早くから選択しなければと戸惑うことは少なくありません。そこで『いつ産み、どう働くのか』を専門家と等身大の先輩女性たちに取材。自分だけの正解の探し方とそのための戦略を聞きました。
「はっきり言って結婚は何歳でしても構わないと思いますが、出産は漠然と『30歳までには』と思っていました。まだ結婚も出産も予定はありません」(29歳女性)
「30歳で結婚してから毎年、年間の事業計画表が出るたびに『いつ産むか、今年は産めそうか』と迷っていました。結局33歳で出産しました」(37歳女性)
20代から30代。働き始めて数年たち、仕事が面白くなり、責任が大きくなってくるのも感じ、将来のキャリアプランについて考えることが増えてきます。そんな時期の女性にとって気になり始めるのがライフイベント。中でも「長く働き続けたい」と考える女性には「子どもを産むか、産まないのか」「産むとしたら、いつ産むのが正解なのか」は頭を悩ませる問題です。
生物学的に見た人間の妊娠・出産の適齢期は20代といわれ、30代以降は妊娠率の低下や妊娠・出産にまつわるリスクの上昇が進みます。こうした時期がキャリアの形成時期と重なるため、就職、転職、異動、昇進などキャリアの節目に影響しそうな「いつ産む」に多くの女性が思い悩んでいるのです。
さらに、20代と30代では悩みどころも違ってきます。年齢につれてどのように変わっていくのでしょうか。
20代と30代では悩みどころが変わる「いつ産む問題」
「いつ産むか」について、20代と30代では悩みどころが変わってくると指摘するのは、MANABICIA 代表の池原真佐子さん。働く女性に社外のメンター(相談者)が、キャリア形成のための助言やノウハウ共有を行うサービスを展開しています。
「20代は、先の先まで考えすぎて動けなくなっているケースが多いですね」(池原さん)。特に多いのは、現在パートナーもいなくて結婚や出産の予定もないのに、仕事と育児の両立の大変さを頭の中で思い描きすぎて不安になっているタイプだといいます。
30代になると「実際に今年産むのか来年なのか、この昇進・昇格を受けたら産む時期はいつになるのか、産んだら出張に行けるだろうかなど、個別で具体的な悩みに変わってきます」(池原さん)
とはいえ、いつ産むかを決めたとしてもその通りに実現するとは限りません。であれば、産む時期によってどのような状況があり得るかをざっくりと想定しておき、それぞれに対策ができると知っていれば余計な不安は少なくなります。
早めの出産、遅めの出産、それぞれの一般的な利点と課題を見てみましょう。
早め出産・遅め出産、それぞれの利点と課題
20代までの早め出産で有利なのは、若さゆえの体力面です。出産時や子育て期は想像以上に体力を使うもの。仕事と子育ての両立も、体力があるほど負担が軽く感じられるはずです。また親世代も比較的若いので、何かあればサポートが期待できます。
一方で、20代は仕事で求められるスキルがまだ十分でなかったり、自分の裁量で動ける範囲が小さかったりという課題があります。そのため出産後に同じ仕事を続けることを諦めてしまったり、昇格や昇進が停滞してしまったりということも。経済的余裕や精神的なゆとりが少ない場合もあります。
30代以降の遅め出産で有利なのは、ある程度のキャリアを積んでいる点。職場で一定のポジションを築き、仕事の調整も以前よりしやすくなるでしょう。20代のころに比べれば経済面、精神面にも余裕があるはず。
一方で課題はやはり体力が徐々に低下していくことと、妊娠・出産面のリスクが徐々に上がること。妊よう率(現実的に妊娠できる確率)が下がり、妊娠までに時間がかかることも。
そして、親世代が高齢になってきます。場合によっては、親の介護や看護と子どもの育児が同時期に重なる「ダブルケア」になることも。認知症などによる要介護は若年化しつつあるといわれ、一方で出産の高年齢化も進行しています。「今後、ダブルケア事例はさらに増加していくでしょう」(訪問介護サービス業、カラーズ代表の田尻久美子さん)
このように、早めに産んでも遅めに産んでも、それぞれに有利な点や課題はあります。課題に対しては、さまざまな解決策や備えを自分で選んで、対処していけるはず。「どのような人生のストーリーを紡いでいきたいかは自分が決めて選択していくもの。人生のオーナーシップは自分自身にあるのです」(池原さん)
迷ったときは先人に聞いてみる
キャリアの中でいつ産むのが最適なのか。人それぞれ、一般解はない中で、自分の正解はどのように見つけていけばいいのでしょうか。
仕事と育児両立のための研修などを手がけるスリール代表の堀江敦子さんは、「漠然と不安でモヤモヤ悩むときは、3年後にどうなっていたいかという自分の姿を描いてみましょう。そこから逆算すれば、いま分からないこと、悩んでいることは何か、自分が本当にどうしたいのかが見えてきます」と言います。
両立の実態が分からなくて不安なら、同じ社内のワーママを探してランチに誘うなど、「先人」の話をたくさん聞くことを勧めます。
「前向きに進んでいくために必要なのは『ロールモデル(先人)』、両立のための具体的な『選択肢』を知ること、そして『相談相手』です。相談相手は友達ではなく、先人や専門家が望ましいでしょう。友達だと『悩むよね~』と同調するだけにとどまってしまうことがあるためです」
池原さんは、いつ産むかで悩む女性によく助言することがいくつかあると言います。
1つは、まずは今の仕事やキャリアを突き詰めること。「リーダーなど裁量が増えるポジションを目指したほうがいいと思います。女性は管理職になると自信が一気に高まるという研究結果もあり、裁量を持って働くほうが、仕事と育児両立の満足度や充実度が高いからです」(池原さん)
ただしキャリアアップの途上であっても、パートナーがいて妊娠したら出産を迷う必要はない、とも。「妊娠は不確実性があるので、機会があれば仕事にかかわらず、出産をためらう必要はありません」
仕事や職場のその時々の状況に左右され、「いま産んだら周囲に迷惑がかかる」などと制限をかけてしまうこともありますが「自分の人生に責任を取れるのは自分だけ。仕事については妊娠した場合のシミュレーションを十分にした上で、制約があるからやめるのでなく、どうしたら諦めずに済むか、不測の事態に、仕事も私生活もどんなサポート体制が取れるかを戦略を立てて」
そしてもう1つ、「チームを組んでおきましょう」と池原さん。「女性は、人に『助けてください』と言うのが結構、苦手なんです。精神的な支えになってくれる人、何でも相談できる人、いざというときにサポートしてくれる人のチームを作っておくといいですね」
結局、正解はどこかにあるというよりは、「選択肢と解決策を知った上で、自分が納得して選んだ結果が、最終的に正解になっていくのではないでしょうか」(堀江さん)。「自分で決めて選んだことを、そこから正解にしていくというつもりで準備をしておけば気持ちが楽になります」(池原さん)
(取材・文 秋山知子=日経doors編集部、写真 都築雅人)
[日経doors 2019年6月17日付の掲載記事を基に再構成]
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