キャデラックCT6 ロックが似合う最上級セダン

2019/9/1
今回の改良ではATを8段から10段に多段化。3.270の最終減速比はそのままに、4.620~0.660だった変速比幅を4.696~0.636に拡大した(写真:荒川正幸、以下同)
今回の改良ではATを8段から10段に多段化。3.270の最終減速比はそのままに、4.620~0.660だった変速比幅を4.696~0.636に拡大した(写真:荒川正幸、以下同)
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1960年代から洋楽の歌詞に登場し、かの地の若者の心情を代弁してきたキャデラック。最上級セダン「CT6」のオーディオで懐かしのロックを鳴らし、ドイツ車にも日本車にもまねできない、アメリカンラグジュアリーならではの贅沢(ぜいたく)に浸った。

ボ・ディドリーもアリアナ・グランデも

キャデラックという名前がなぜ自分の気持ちの中に深く刻み込まれているのかといえば、若かりし頃に聴いた洋楽の影響なのだと思う。

イギリスのモッズムーブメントを支えたキンクスはその名もズバリの『Cadillac』という曲を1964年にリリースしている。その原曲はロックの始祖ともいわれるアメリカのボ・ディドリーが60年に書いたもので、これはそのままCMにも使えそうなくらい憧憬(しょうけい)がつづられたものだ。同じくイギリスのパンクムーブメントを代表するザ・クラッシュのアルバム『London Calling』といえばロック史に残る名盤とされているが、その中に収まる『Brand New Cadillac』は、ここで書くのもはばかられるほどしょうもない歌詞の中に、自らの殻を破るという類いの意思が込められている。ちなみにこれも元ネタはあり、イギリス初のロッカーといわれているヴィンス・テイラーが59年に歌っていた。

2019年5月に日本で発売された「キャデラックCT6」のマイナーチェンジモデル。インテリアでは、シフトセレクターなどセンターコンソールまわりの意匠が大幅に変更された

九州の片田舎で原曲を聴くことは到底かなわず、上京するや西新宿や駿河台で音源を血眼で探したものだが、今やYouTube等でそれは簡単に再生できる。いい時代になった……では片付けられないような何かを感じることも多い。

かようにキャデラックは欲求をはじめとしたさまざまな心情を代弁する比喩的な存在として重用(ちょうよう)されてきた。ちなみに小林 旭の『自動車ショー歌』にキャデラックの出番はなかったが、アリアナ・グランデは『Cadillac Song』でティーンにぶっ刺さりそうな甘ったるいラブソングをつづっている。今に至るまで、キャデラックという名前はかの国において特別なものなのだろう。

ラテン語のペットネームが懐かしい

恐らくアリアナ・グランデが歌うキャデラックは「XT5」などのSUVだろうが、他の歌に出てくるキャデラックは、登場年から推するに“クローム&フィン”と称される、アメリカ車が最もハッチャケていた頃のものを指しているのだと思われる。特に59年といえば、キャデラックにおいてはヴィンテージイヤーと称しても大げさではない。

北米ではさまざまなパワートレインが用意される「CT6」だが、日本仕様は3.6リッター自然吸気エンジンに4WDの組み合わせのみとなる

車格的にも金額的にも認知的にも、現代のフラッグシップ・オブ・キャデラックは「エスカレード」だろう。このフルサイズSUVが今やフォーマルにもバンバン用いられていることは、グラミー賞などのレッドカーペットをみていればよくわかる。でも特別な思い入れのあるオッさんにしてみれば、4ドアサルーンこそがキャデラックのフォーマルな容姿だろう。

今、キャデラックのラインナップの中で最も上位に位置づけられるサルーンは、このCT6だ。行く先々のブランドで車名の記号化・定量化に励んできたヨハン・ダ・ネイスン前社長の意向が強く働いたのだろう、その命名はプレミアムブランドのフォーマットにのっとってはいるが、キャデラックといえば美しいラテン語のペットネームが伝統であり特徴でもあっただけにやはり寂しさは拭えない。

先ごろ上陸したマイナーチェンジモデルがまとうデザインは、最新のキャデラックのフォーマットに沿ったものだ。2016年のペブルビーチ・コンクール・デレガンスで発表されたコンセプトカー「エスカーラ」に端を発するそれは、キャデラックの代名詞ともいえる前後のバーチカルラインだけでなくホリゾンタルのアクセントも加えられ、安定感や精緻さが強調されたものとなっている。