河童・鬼・てんぐ… 怪しくも楽しい妖怪の町10選
1位 岩手県遠野市
河童 座敷童やてんぐの伝承も
民俗学者、柳田国男による1910年出版の、妖怪や神霊などの伝承をまとめた「遠野物語」の舞台。「初めてでも気軽に楽しめる一方、今なお息づく妖怪の空気を味わえる」(似田貝大介さん)
河童伝説が確認された14カ所で最も有名なのが土淵町の「カッパ淵」=写真=だ。近くの常堅寺の火事を消して狛犬(こまいぬ)になった、水中に馬を引きずり込もうとしたのが見つかり、許してもらった後で家に入って座敷童(ざしきわらし)になった、と伝わる。「河童は見るもんじゃない。会うものだ」と話すのは市公認の守(まぶり)っ人(と)、二代目カッパおじさんこと運萬治男さん。運が良ければキュウリを餌に一緒に河童釣りを楽しめる。観光協会は「カッパ捕獲許可証」(210円)を販売する。
遠野物語で座敷童が2人いたという山口孫左衛門家の跡は雑草に覆われた野原。しかし「早池峯神社近くの廃校の小学校で今も座敷童の目撃者がいるなど人と妖怪との距離感が近い」(村上健司さん)。
市立図書館博物館にはてんぐの持ち物や孫左衛門家にあった像を展示。妖怪を解説するアニメーションを上映する。
(1)主なアクセス カッパ淵へはJR遠野駅からタクシーで約10分(2)サイト https://tonojikan.jp/(遠野市観光協会)
2位 鳥取県境港市
ゲゲゲの鬼太郎と仲間 水木しげるロードでお出迎え
「ゲゲゲの鬼太郎」の原作者、故・水木しげるの出身地。境港駅から水木しげる記念館を結ぶ水木しげるロードで177体の妖怪ブロンズ像が観光客を出迎える。多くは二十数センチ程度の大きさだが、「ふとした場所にさりげなくいるのが妖怪らしい存在感で良い」(宮本幸枝さん)。伝承されてきた妖怪より、水木創作のキャラクターが多い。
妖怪神社に妖怪パン、目玉おやじそっくりのまんじゅう、小豆を洗う効果音など町一丸で盛り上げる。「妖怪全般を楽しみたい人はぜひ。スタンプラリーは親子で楽しめる」(松村薫子さん)
砂かけ婆(ばばあ)や死神と出会えたら、一緒に写真を撮ろう。8月24日までの土曜日(除く17日)と11~15日は午後7時から午後9時まで鬼太郎らがナイトウオークに登場する。
(1)JR境港駅から記念館へ徒歩約10分(2)http://www.sakaiminato.net/(境港市観光協会)
3位 徳島県三好市
子泣きじじい 手作りの像が並ぶ山道
年寄りなのに赤ん坊のように泣き、抱き上げるとしがみついて離れない。しまいに命を取る――。柳田国男がコナキヂヂと紹介した児啼爺(こなきじじい)の里。「空が狭いと感じるほど急峻(きゅうしゅん)な山に囲まれ、不思議な雰囲気」(香川雅信さん)
妖怪は70種類、伝承の地は190カ所確認されている。事故が起きやすい道などを「妖怪が出る」と警告したのが起源という。道の駅大歩危の「妖怪屋敷」には住民自作の「ユーモラスな妖怪たち」(富本一幸さん)を展示。道の駅から児啼爺の石像を往復する約4キロと、山を登る約8キロの妖怪ロードには全28体の手作りの像があり、妖怪たちが大切にされていることを実感する。「夕暮れ時がおすすめ。マジ怖い」(前川さおりさん)
(1)妖怪屋敷はJR大歩危駅から徒歩約20分(2)https://oobokeyoukaimura.localinfo.jp/(四国の秘境 山城・大歩危妖怪村)
4位 広島県三次市
逆さ首 平太郎を襲う怪異の記録
稲生物怪録(いのうもののけろく)と、妖怪研究家の湯本豪一さんのコレクションを集めた日本初の妖怪博物館「三次もののけミュージアム」が4月に開業。稲生物怪録は江戸時代、三次に実在した稲生平太郎(当時16歳)のもとに現れた妖怪や怪異の物語だ。串刺しになって部屋を飛び回る無数の小さな首、顔をなめる女の逆さの生首などが登場。「『稲生物怪録』をもとにした宇河弘樹さんの漫画『朝霧の巫女(みこ)』の風景をたどりながら町をめぐるのも楽しい」(松村さん)。
(1)JR三次駅から徒歩約30分(2)https://miyoshi-mononoke.jp/(三次もののけミュージアム)
5位 京都市左京区
牛鬼 異界観たっぷりの参道
京都市左京区には牛鬼とてんぐの伝承がある。貴船神社に伝わる牛鬼は、もともとは祭神の従者。しかし、口の軽さが災いし、罰として舌を八つ裂きにされ、死後に牛鬼となって本殿の北にある「牛一社」にまつられたという。
鞍馬寺のてんぐについては、「鞍馬山のカラスてんぐが牛若丸こと幼少の源義経に剣術を教えた」(千葉幹夫さん)。ほかに650万年前に宇宙から降臨した護法魔王尊の使者で大てんぐがいるという話も。本殿から「奥の院魔王殿への参道は異界観たっぷり」(小松和彦さん)。
(1)貴船神社は叡山電車貴船口駅からバス。貴船下車。鞍馬寺は叡山電車で鞍馬駅下車、専用ケーブルあり。寺社間は徒歩で1時間強(2)http://kifunejinja.jp/(貴船神社)、http://www.kuramadera.or.jp/(鞍馬寺)
6位 沖縄県各地
キジムナー 心澄んだ人だけ見える木の精霊
ガジュマルに宿る精霊、キジムナーは赤い髪の子ども。仲良くなると魚を捕ったり、無料で旅に連れて行ったりしてくれるが、心が澄んでいる人にしか見えない。「キジムナーが出たというガジュマルの林は異様だった」(多田克己さん)。「琉球村」(恩納村)が訪ねやすい。
(1)那覇から名護行きバスで60分、琉球村前下車(2)https://www.ryukyumura.co.jp/(琉球村)
7位 京都市上京区
百鬼夜行 妖怪にふんし商店街練り歩く
百鬼夜行の道、一条通。大将軍商店街は10月「一条百鬼夜行」で約100人が妖怪に。陰陽師安倍晴明をまつる晴明神社や頭は猿、胴は狸(たぬき)、手足は虎、尾は蛇の鵺(ぬえ)をまつる鵺大明神、源頼政が退治した矢じりを洗った池も。「妖怪好きなら一度はたどりたい」(宮本さん)
(1)大将軍商店街は京福電車北野白梅町駅から徒歩5分(2)http://kyoto-taisyogun.com/(大将軍商店街)
8位 栃木県那須町
九尾のきつね 今でも毒を吐く殺生石
玉藻前(たまものまえ)こと九尾の狐(きつね)。中国の殷(いん)の王の后(きさき)に化けて国を滅ぼし、天竺(てんじく)で悪行を尽くした後、日本へ。平安時代に鳥羽上皇に近づくも見破られ、那須に逃げたが殺された。「殺生石」に姿を変え、近寄ると災いをもたらしたという。今でも周囲に硫化水素ガスが発生し、動物の死骸が見つかる。「元々妖怪だったとされるものが見られる珍しい場所」(朝里樹さん)。
(1)JR那須塩原駅か黒磯駅からバス。那須湯本温泉下車(2)http://www.nasukogen.org(那須町観光協会)
9位 京都府福知山市
鬼 国内外の面580点 一堂に
「酒呑童子(しゅてんどうじ)は鬼の代表格。まっすぐさが心を打つ」(千葉さん)。大江山を根城にした盗賊、酒呑童子は京に行っては姫や財宝を奪い、夜ごと酒宴にふけったが源頼光らによって討ち取られた。この地にはほかにも2つの鬼の伝説がある。
日本の鬼の交流博物館は「鬼について知るなら一番」(小松さん)。国内外の鬼の面580点を展示。大江山には鬼の洞窟、博物館近くには鬼の足跡がある。
(1)北近畿タンゴ鉄道大江駅からタクシーで約15分(2)https://www.city.fukuchiyama.lg.jp/onihaku/(日本の鬼の交流博物館)
10位 島根県松江市
化けガメ 巨大な石像、怪談ツアーも
月照寺に2メートルの高さに首をもたげたカメの石像がある。江戸時代、夜な夜な人を食らったため、時の住職が背中に石碑をたてて封じ込めた。城の北側に小泉八雲記念館があり、化けガメは小泉の随筆にも登場する。観光協会が怪談スポットを歩くツアーを開催し、「怪談を文化資源として効果的に活用している」(市川寛也さん)。
(1)月照寺、小泉八雲記念館はJR松江駅から松江レイクラインバス利用(2)https://www.kankou-matsue.jp/(松江観光協会)
妖怪は地域の宝 敬意を払い訪問
荒れた田んぼで突如「田を返せ!」と泥田坊(どろたぼう)が叫ぶ、空き家から障子に無数の目がある目目連(もくもくれん)がのぞいている……考えるだけでわくわくする。妖怪とは何か? 妖怪研究家の湯本豪一さんは「心の不安、自然に対する畏怖、闇の中でうごめく気配などから何かを見いだしてビジュアル化したもの」という。
今の日本人が思い浮かべる妖怪は、水木しげるのマンガ「ゲゲゲの鬼太郎」だろう。水木は江戸時代に鳥山石燕(とりやませきえん)が著した「画図百鬼夜行」などを基にしただけでなく、独自のキャラクターを作り出し、世代を超えて引きつけるマンガを描いた。
その愛蔵版第5巻「カニ妖怪」の回で、子泣きじじいが「世界一妖怪の多い日本」と言っている。実際、各地に妖怪の逸話がある。その地の妖怪を学んでから訪ねると、楽しくなること請け合いだ。妖怪は地域の宝。寺社や地域にとっては信仰の対象としていることがある。敬意を払い、会いに行こう。
◇ ◇ ◇
ランキングの見方 数字は選者の評価を集計した点数。地域は市区町村とし、主な妖怪を記した。(1)主なスポットへの交通手段(2)情報サイト。写真は1~5、8、10位は三浦秀行撮影。6位琉球村、7位大将軍商店街、9位は日本の鬼の交流博物館の提供。イラストは画図百鬼夜行(鳥山石燕)や稲生物怪録絵巻を参考に茂木麻美。
調査の方法 専門家の協力で妖怪の伝承がある地域を中心に28カ所をリストアップ。「本当に妖怪がいそうな雰囲気がある」「地元に伝わる妖怪を知ることができる」「親子で遊びに行きたい」町を1位から10位まで順位を付けてもらい、編集部で集計した。(三浦秀行)
今週の専門家 ▽朝里樹(「日本現代怪異事典」著者)▽市川寛也(群馬大准教授)▽香川雅信(兵庫県立歴史博物館学芸課長)▽小松和彦(国際日本文化研究センター所長)▽多田克己(妖怪研究家)▽千葉幹夫(妖怪研究家)▽富本一幸(トラベルニュース編集長)▽似田貝大介(「怪と幽」編集長)▽前川さおり(遠野文化研究センター学芸員)▽松村薫子(阪大准教授)▽宮本幸枝(妖怪愛好ライター)▽村上健司(ライター)=敬称略、五十音順
[NIKKEIプラス1 2019年8月3日付]
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