「女性取締役はなぜいない」 株主総会で質問続々
株主総会で企業の女性活用に関する質問が増えている。三菱UFJ信託銀行によると、上場企業が直近の6月総会シーズンに受けた女性活用やダイバーシティ(多様性)についての質問は100件を超えた。企業は株主や投資家に対し、業績や経営戦略に加え、女性活用の具体的な取り組みや進捗状況への説明責任が求められている。
「女性の取締役候補がなぜ議案にないのか」――。リクルートホールディングスが6月19日に都内で開いた定時株主総会で個人株主から質問が飛んだ。人事担当の池内省五取締役は、「取締役会のダイバーシティは重要と認識している。取締役会のバランスの中で(女性起用を)考えていきたい」と応じた。
同社の株主総会で女性活用の質問が出たのは今年で3年連続だ。取締役の7人には外国人が含まれるが、女性はゼロのまま。これをダイバーシティの取り組み不足と受け取った個人株主からの経営陣への問いかけだった。
株主・投資家の圧力は総会に限らない。普段の事業説明会やIRミーティングで接する海外投資家や非政府組織(NGO)などからも、サステナビリティー(企業の持続性)やボード(取締役会)の構成の観点から女性役員の起用の是非を問われる機会があったという。経営陣にとって「女性」問題の解決はある意味、宿題ともいえる。
同社は2019年の株主招集通知の中で、21年6月の総会までに少なくとも1人は女性取締役候補を取締役会で選定する方針を公約した。タイムリミットは2年。「女性であれば誰でもよいという話ではない。本人のスキルや能力、他の取締役との専門性のバランスも考えながら、女性候補者の選定をじっくり進めていきたい」と人事担当の瀬名波文野執行役員は話す。
大手芸能プロダクションのアミューズでは、同社初の生え抜きの女性役員で08年から取締役を務めていた市毛るみ子専務執行役員が6月総会をもって退任した。総会では女性取締役が不在になることへの質問が出た。柴洋二郎社長(当時、現副会長)は「女性取締役はゼロになるが、19年4月から女性執行役員が2人誕生している」と女性登用の進捗を説明し、株主に理解を求めた。
同社の女性幹部は執行役員クラスで2人、部長級で7人。宮腰俊男執行役員は「管理職クラスの約40%を女性が占めており、女性登用が進んでいる方だと思う。この中から将来の取締役候補も出てくるはず」と期待を示す。
三菱UFJ信託銀行が「女性」というキーワードで過去データを調べたところ、18年6月の上場企業の総会では質問が59件あり、全質問件数の1.5%を占めた。企業統治改革が本格的に始まった15年から4割増という。
19年の6月総会の全体数値は出ていないが、同社が総会サポートする760社を調べたところ、93社の総会で女性を含むダイバーシティ関連の質問が出た。法人マーケット統括部の中川雅博次長は「項目別に見ると『女性』問題はコンスタントに上位10位前後に入る。事業や業績などと並び、株主との対話において重要な要素になった」と分析する。
東京電力ホールディングス(HD)の株主総会でも、株主が「女性役員のあり方」について会社側に問うた。同社の女性取締役は社外取締役1人のみ。社外取締役として経営陣を監督する立場の川村隆会長(日立製作所出身)は、「企業の多様性を確保するため、社内の女性(幹部)を登用する方向にある」と社内の取り組み状況を説明した。
課長以上の女性管理職比率(持ち株会社と主要3子会社の合計)は、18年3月末時点の3.8%(197人)から19年3月末は4.2%(221人)に上昇した。持ち株会社の執行役員は昨年のゼロから19年4月に2人に増えた。女性登用に関する質問は18年の総会でも出た。目標の10%にはまだまだ遠いが、取り組みの成果が徐々に実を結んでいる形だ。
株主総会で女性登用に関する質問が当然出るであろうと想定し、株主への総会招集通知で事前に会社の方針を説明したのがコニカミノルタだ。取締役の選定の前提を「経営課題に対する適切な監督者という要件を最優先する」と示したうえで、初の女性社外取締役は「人財マネジメントに関して日米で豊富な経験や知見を持っている」と説明した。女性だからではなく、取締役会メンバーのキャリアとスキルのバランスで選んだことを強調している。
女性取締役の起用で悩ましいのは、1人で複数の会社の社外取締役や社外監査役を兼ねる例が多いことだ。経営に詳しい候補者の層が薄いうえ、生え抜きの女性役員は人数がさらに限られる。兼任批判を受けて女性社外取締役の増加が鈍化するなか、人物本位で取締役会に女性を起用したいと考える企業は多い。
「企業経営者の目の色が変わってきた」。企業統治助言会社のプロネッド(東京・港)の酒井功社長は、女性登用やダイバーシティの拡充に関する経営者の意識が様変わりしたと驚く。
同社が毎年開く役員育成研修に今年初めて、食品や電機など6社が生え抜きの女性執行役員や女性取締役を派遣した。従来は社外取締役や退任した上級幹部が研修目的で参加する例が多かったという。
酒井社長は「生え抜きの幹部を派遣するのは、取締役就任に欠かせないガバナンス(組織統治)に関する素養や知識をしっかり身につけさせ、何とか取締役会に女性を登用しようという強い意思の表れ」とみる。
上場企業では女性登用の局面も変わってきた。これまでは部長や執行役員クラスに生え抜き社員を就けることが中心だった。17年ごろから有力子会社のトップに優秀な女性を任命する例が金融界を中心に増えている。こうした動きは今後、事業会社にも広がりそうだ。
大手人材ファーム(ヘッドハント会社)、ハイドリック・アンド・ストラグルズ(東京・港)の渡辺紀子パートナーは、「総会のひな壇に女性が一人もいない状態が、投資家・株主の目から許されない時代になったと多くの経営者が気付き始めている」と指摘する。20年の株主総会シーズンには、より多くの企業でダイバーシティ対応への備えが必要になりそうだ。
変化迫られる取締役会 ~取材を終えて~
取締役会に多様性が必要な理由は何か。企業の最高意思決定機関である取締役会が閉鎖的だと、気候変動など世界で起きている大きな変化を、企業が即座に受け止められないリスクが高まるためだ。
社内からボトムアップで取締役会に議題を上げるのと、多彩な能力や知見を備えた人で構成する取締役会がいつでも話し合う環境があるのとでは、議論の発射台がそもそも異なる。世界企業はいち早く多様性を重視する方向にかじを切っている。
日本でも企業統治改革の進展により取締役会は経営陣を監督し、大所高所の議論をする場に急速に変わりつつある。多様性は性別、国籍、年齢など多岐にわたる。高齢男性が多数派を占める取締役会を脱しないと大競争時代に取り残される。
(木ノ内敏久)
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