変形性関節症 週1時間以上の中強度運動で障害予防?
股関節や膝関節に痛みやこわばりがある変形性関節症(変形性股関節症、変形性膝関節症など)の患者が、中~高強度の運動を週に1時間以上行えば、障害の発生を予防できる可能性があることが、米国の研究で分かりました。
変形性関節症は進行すると歩行などに障害
年齢が上がるにつれて、膝関節や股関節といった下肢の関節に痛みやこわばりを感じる人が増えてきます。そうした症状の原因の1つが変形性関節症です。変形性関節症は、進行すると歩行や着替え、入浴などの日常動作に支障をきたすようになり、日常生活に介助が必要になります。
高齢者において、日常生活に介助が必要になることは、地域の人々とのふれあいの機会を減らし、健康に悪影響をおよぼし、死亡リスクを上昇させます。変形性関節症に関してはこれまで、運動が、障害を予防する上で有用であることが示されていました。運動量が増えれば障害が生じるリスクは下がり、座っている時間が長いと障害を負うリスクが上昇するという研究結果もあります。しかし、どの程度の運動をどのくらいの時間行えばよいのかは、明確に示されていませんでした。
そこで米Northwestern大学のDorothy D. Dunlop氏らは、下肢に変形性関節症の症状が見られており、障害を負うリスクの高い人々が、障害のない状態を維持するために必要な運動の強度や運動時間を明らかにしようと考えました。
分析の対象となったのは、肢の関節(股関節、膝関節、足首の関節、足首からつま先までの関節)に痛みやこわばりなどの症状があるが障害はみられない、変形性関節症患者1700人です。
追跡開始時点における運動量を、単軸加速度センサーを装着して7日間連続で測定し、米国立がんセンターの基準に基づき以下のように判断しました。
・100~2019 カウント/分:低強度の運動をしている状態
・2020 カウント/分 以上:中~高強度の運動をしている状態(おおよそ3METs[注1]以上の運動に相当)
[注1]METs:安静時の運動強度を1としたときに、ある運動や身体活動がどれくらいの強度に該当するかを示す単位。この論文でいう「中~高強度の運動」はおよそ3METs以上と考えられ、軽い筋トレや早歩き、ジョギング、サイクリングなどが該当する。
障害の有無は、以下のように定義しました。
・基本的な日常生活動作(寝返り、起き上がり、立つ、座るなどの起居動作、室内での歩行、着替え、入浴、食事、排せつなど)を1人で行えると自己申告した場合:日常生活動作(ADL)に障害なし
「中~高強度運動を週約1時間」で歩行障害が減少
4年以上にわたって追跡でき、障害発生の有無を知ることができたのは1564人でした。うち56%が女性で、38%がBMI(体格指数)30以上の肥満でした。膝関節に症状がある人が最も多く、続いて股関節症状が多く見られましたが、対象者の半数以上が両方の症状を持っていました。4年の追跡期間中に歩行障害が生じた患者は147人、ADLに障害が生じた患者は238人いました。
1564人の1週間あたりの中~高強度運動の実施時間は81分(中央値、以下同じ)で、低強度運動の時間は1949分、低強度以上の運動時間を合わせると2081分になりました。座位時間は4131分でした。
運動による障害予防効果を検討したところ、中~高強度運動を週に56分以上行うと、「歩行障害がない状態の持続」に有効で、週に55分以上行うと、「ADL障害のない状態の持続」に有効であることが明らかになりました。
具体的には、中~高強度運動時間が週に56分未満だった人では、24%が歩行障害を負っていましたが、56分以上だった人ではその割合は3%と少なく、リスクは86%減少していました。同様に、ADL障害では、運動時間が週に55分未満だった人では23%が障害を負っていましたが、55分以上だった人ではその割合は12%で、リスクは45%減少していました。
1週間に56分、55分という運動時間の目安は、患者の年齢、性別、BMI、変形性膝関節症の存在にかかわらず当てはまりました。
著者らは、患者にわかりやすいよう、「週に60分以上を目標に中~高強度の運動を行えば、変形性関節症のある患者の将来の障害リスクの低減が期待できる」としています。
論文は、American Journal of Preventive Medicine誌2019年5月号に掲載されています[注2]。
[注2]Dunlop DD, et al. Am J Prev Med. 2019 May;56(5):664-672.
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。
[日経Gooday2019年7月16日付記事を再構成]
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