長友選手を変えたファットアダプト食事法の医学的根拠食事法の監修医師・専属シェフに聞く(下)

日経Gooday

持久系スポーツで、「長く安定したエネルギー源を確保する」という意味では、もともと体内にせいぜい500gほどしか蓄えられていないグリコーゲンを使おうとするよりも、体脂肪をエネルギー源にする回路を作っておくファットアダプトが有利であると私は考えています。例えば、長友選手であれば、体重60キロ、体脂肪10%とすれば、6キロの体脂肪があるわけですから。

ファットアダプトはどんな人に向く?

――ファットアダプトは持続的に脂肪をエネルギー源にできる体を作るから、安定したパフォーマンスが期待できる、ということですね。ここで1つ確認させてください。現在、スポーツをしている人でカーボローディングをしている人もいると思います。誰もがファットアダプトにしたほうがいいのでしょうか?

山田医師 それはその人の体質、具体的には糖代謝の状態によります。もちろん、おにぎりを2個も3個も食べても食後血糖値が上がらないような人、つまりインスリン分泌能力の高い人、正確にはインスリン分泌の速い人というほうが正確な表現かもしれませんが、そういう人は、カーボローディングを行っても問題ないと思います。

しかし、食後高血糖が起こるようであれば、ファットアダプトを意識したほうがいいでしょう。糖代謝の良くない人がカーボローディングを行うと、血糖値の上下動が筋肉のパフォーマンスを低くし、高くなった血糖値を処理するために後から遅れて分泌されたインスリンの働きによって体脂肪が増えたり、あるいはそのインスリンにより血糖値が下げられて、眠気やだるさが起こる可能性があるからです。

加藤シェフ 食事法を決めるに当たってはまず、その人の目的を明確にすることが大切だと思います。体脂肪がつきすぎているので減らしたいのか、負荷を減らすために体重を減らしたいのか、という目的によって食事法を考える必要があります。

カーボローディングは古いとか、否定しているわけではありません。その人の体質、それに目的によって変わってくるものだと考えたほうがいいでしょう。

ただ、自分では意識できていなくても、糖が体に負担をかけている場合があります。親が糖尿病になっている人などは、その可能性が高くなると思います。やはり一度、食後血糖値を測ってみるのがいいと思います。自分にとって食後高血糖が起こらない1食当たりの適正な糖質量が見えてきます。

長友佑都専属シェフの加藤超也さん

まさに私がそうでして、父が糖尿病と診断されました。血糖値測定装置を6週間つけて計測したところ、体質的に食後血糖値が上がりやすいことがわかりました。そこで、長友選手同様、糖質を控えめにし、脂質とたんぱく質多めのファットアダプトを続けています。

たまに「今日は弾けよう」と、糖質をたくさんとる日もありますが、翌日の寝起きが悪く、体が重くなり、さえない状態になります。これがアスリートだったら最悪ですね。このように、私もファットアダプトの効果を実感しています。

たんぱく質は何をとるのがベスト?

――たんぱく質の摂取源ですが、肉、魚、卵、豆腐などいろいろとあります。加藤シェフはどのように選んでいるのですか。

加藤シェフ 今、長友選手が滞在しているイスタンブールは、目の前に海があり、新鮮な魚介類が市場に並んでいます。トルコのみなさんは優しくて、毎日通っている魚屋さんは、新鮮なものをとっておいてくれたりするんです。

長友選手自身、魚が大好物なので、食卓に魚が登場することが多いですね。スズキやヒラメなどの白身の魚と、マグロやカツオなどの赤身の魚をバランスよく選ぶようにしています。たんぱく質の摂取量は「体重1キロ当たり2g」を目安にしています。糖質量は規定量に収めつつ、肉や魚はたくさんとってもらっています。

山田医師 とてもよいと思います。肉や魚は含まれる脂質も異なります。いろいろなものをまんべんなくおいしく食べるのが、安全かつ栄養的にも有効だと思います。

ファットアダプトでは、「ロカボと同じように、たんぱく質と脂質は、満足いくまで食べてください」とお勧めしています。

2018年に肥満の機序について、ハーバード大学から興味深い論文が発表されています(JAMA Intern Med. 2018;178:1098-1103.)。ここでは、「糖質をとり過ぎることにより高血糖が起こり、インスリンが遅れて過剰分泌することによって後から血糖値が急激に下がる。このときの飢餓感によって食べ過ぎて、肥満が起こる」というモデルを提示しています。

肥満の機序について、新しいモデルが提示されている (JAMA Intern Med. 2018;178:1098-1103.より改変)

今後は、食後高血糖にならないように糖質量をコントロールすることが、肥満予防のためにまず重要である、という考えが主流となるでしょう。「糖質を緩やかに制限し、たんぱく質と油はお腹いっぱい食べていい」という事実をぜひみなさんに知っていただきたいと思います。

――山田先生、加藤シェフ、ありがとうございました。

(ライター 柳本操、インタビュー写真 菊池くらげ、図版 増田真一)

長友佑都選手の食事法 監修医師・専属シェフに聞く
前編 長友選手のカラダ再生 脂質で変えるファットアダプト
山田悟さん
北里大学北里研究所病院糖尿病センター長、食・楽・健康協会代表理事。1970年東京都生まれ。日本糖尿病学会糖尿病専門医。日々、多くの患者と向き合いながら、食べる喜びが損なわれる糖尿病治療においていかに生活の質を上げていけるかを研究する中、糖質制限食に出合い、積極的に糖尿病治療に取り入れる。2013年に、一般社団法人「食・楽・健康協会」を立ち上げる。著書『糖質制限の真実』(幻冬舎)ほか多数。
加藤超也さん
長友佑都専属シェフ。1984年青森県生まれ。2010~2016年横浜市のイタリア料理店「cucinapinocchio」でシェフを務める。2016年Cuoreに入社し、長友佑都専属シェフに就任。長友選手のインテル・ミラノ在籍時はイタリアでサポートに従事。現在はガラタサライへの移籍と合わせてトルコのイスタンブールに移り住み、2018-19シーズンの長友選手の2連覇と2冠に貢献。昨今は様々な競技のトップアスリートへの食事指導を行う。

[日経Gooday2019年7月25日付記事を再構成]

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