実り始めたスマート農業 産地格差や価格下落に課題

――都市型の農業はどんな姿を目指せばよいのでしょうか。

「都市部における農地には緑地空間としての機能があります。都市の農地が減ると防災や交流、景観をはじめ、農地や農業が持つ公共性や社会性を保てなくなる恐れがあります。川崎市が農業振興計画を初めて作ったときは、空間としての『農』の大切さを強く訴えました。しかし、農家の方々の多くは自分たちは『農』ではなく、『農業』の担い手だと認識しています。現在の農業振興計画は、産業としての農業の強化に力点を置く内容になっています。私は農業、農家、農地の3つがそれぞれ大切だと主張しています」

――川崎で生まれた最先端の農業技術をどのように活用すればよいのでしょうか。

「都市部には限られた農地しかないので、開発した技術を売ろうと考えたら、川崎だけではビジネスが成り立たないのは当然です。優れた技術なら必ず全国に普及します。川崎が先端の農業技術の発信元となり第2、第3の技術が出てきて、集積の利益が生まれるのを期待しています」

「スマート農業には幅があるという点にも注意が必要です。例えば、究極の先端技術を使う植物工場は生産性が高くて素晴らしいという見方があります。確かに、高層ビルを植物工場にすれば単位面積当たりの生産力が高まります。地価が高い都市部で農業をするのなら、ビルでやったほうがよい、と考える人もいるでしょう。ただ、再び緑地空間の議論が出てきます。空間、景観、市民が土に触れるといった都市農業が持つ機能を排除していくことになるからです」

「私は、植物工場が席巻するようなことにはならないと思います。ある農家の方は、最新型のトラクターを運転するのを楽しみにしているのに、自動運転のトラクターが入って無人化が進んだら、それ以外の単調な作業が残ると語っていました。外部からみた農家の姿と、農家の方々の日々の楽しみ、充実感にはずれがあります。先端技術を入れれば競争力が高まるというだけでは、スマート農業は広がらないでしょう。農業とは何かをあらためて考えるときかもしれません」

(編集委員 前田裕之)

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