小林氏は「社会のニーズやトレンドも大事ですが、それに応えようと突っ走ると、社会や世界を変えること自体が目的化するというワナに陥りやすいのかもしれません。その場合、いくら能力が高い人でも、困難に直面するなりすぐに方向転換してしまう。別のことを始めてしまい、初心が長続きしない傾向があるようです」と話す。
「長谷川さんは、焼肉店のオーナーとの出会いがなければ、『僕も(いわゆる障害者としてくくられる)あちら側だったかもしれない』と、よく口にします」と小林氏は明かす。「発達障害のせいで正当に評価されず、挫折感やときには劣等感を味わい、引きこもりになったりすることもある。すると親にもあれこれ言われ、失望され、味方がいなくなっていく。自己肯定感がさらに薄れ、二次障害を引き起こすこともある。長谷川さんは『自分がそうならなかったのは、紙一重の違いにすぎない』と、本気で考えていると思います」と小林氏。長谷川氏の言葉からは「いつも腹の底からわき起こってくる情熱と使命感が伝わってきて、こちらまで心が震える思いがします」という。
小さなことでも…、チェンジには挑む価値
社会を変えるとまでいかなくても、「チェンジ」に挑戦する道はある。
小林氏は「無理だと決めつけず、相手の立場に立ち、懐に飛び込んでみる。組織のルールやタブーのせいでできないとされていることでも、考え方次第で突破口が開けることがあるはずです」と話す。たとえば、中途採用で入った国際協力銀行で小林氏は、発展途上国の現場を知る商社や電力会社の人たちと一刻も早く打ち解け、色々教わりたいと考えた。それには食事を共にするのがよさそうだったが、そこには「汚職防止=企業との会食禁止」というルールがあった。
そこで考えたのが「特定の会社との宴席が駄目なら、全員でやればいいのでは?」という突破口だ。パーティー会場を借りきって開いた会費制の飲み会は盛況で、これをきっかけに担当国や担当分野のエキスパートとの距離も短期間でぐんと縮まった。入ってくる情報の量は格段に増え、深い情報にも触れられるようになったという。
「これはささいな例に思えるかもしれません。でも、根底に流れるスピリットは変革と同じです。おかしいと感じたら、何らかの行動を仕掛けてみる癖をつけるのがとても大事です。会社のなかでも、そういう人たちが増えていくと、日本はきっと面白い社会になると信じています」
学校法人ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン代表理事。都内の高校からカナダのUWCに編入。1998年に東京大学経済学部を卒業した後、国際協力銀行などを経て2005年にスタンフォード大学大学院で国際教育政策学の修士課程を修了した。国連児童基金(ユニセフ)のプログラムオフィサーとしてフィリピンでストリートチルドレンの教育問題にかかわり、14年に現在の学校の前身であるインターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)を設立。UWCの加盟承認を受け、17年8月に現在の校名になった。
(ライター 渡部典子)