日経ナショナル ジオグラフィック社

現生人類はこれまで考えられていたよりもはるかに早い時期に北方への移動を始めていた。今回の発見がそれを示しているとハーバティ氏は主張するが、一方で、教科書を書き換えるのはまだ早いと考える研究者も多い。

「そう主張するには、顔の骨が必要です」と、アルスアガ氏は言う。

14年、アルスアガ氏のチームはスペインの洞窟シマ・デ・ロス・ウエソス(「骨の採掘坑」という意味)で発見された43万年前の頭骨を分析し、顔はネアンデルタール人だが、ネアンデルタール人に特徴的な細長い後頭部はなかったと発表した。おそらく、アピディマの頭骨も同様に、初期のネアンデルタール人だったのではないかと、アルスアガ氏は考えている。今回の論文の著者らもその可能性は認めているものの、アピディマの化石はシマ・デ・ロス・ウエソスの頭骨や同じ年代の他のネアンデルタール人の骨とも違うと記している。

「議論を呼ぶ新発見があれば、自分が関わっている研究だとしても、まずは健全な疑いの目を向けるべきです」と論文の著者の1人であるストリンガー氏は述べる。「この化石には前頭部、眉弓、顔、歯、あごの領域の骨がありません。そのどれかが『現代的』な形状ではない可能性はあります」。とはいえ、研究チームは不確定要素をできるだけ排除する様々な手段を講じたと、ストリンガー氏は強調する。

「復元とは、科学と芸術の出会い」

「復元とは、科学と芸術の出会いと言えます」と、米ノースカロライナ州立大学の生物人類学者クリストファー・ウォーカー氏も話す。このような分析は、研究者の抱く期待や、比較に使われるモデルの頭骨に影響されてしまうこともあるが、研究チームは細かい部分まで徹底して分析を行ったという。そのうえで、破片にはホモ・サピエンスを思わせる特徴がいくつも含まれていたと、ウォーカー氏は指摘する。

しかし、バークレー地質年代学センターのウォーレン・シャープ氏は小さな破片の古い年代には同意できず、結論を出すのに使用されたデータは「不正確でまとまりがない」とコメントした。また、次に最古とされるイスラエルで見つかったホモ・サピエンスの年代にしても、7万年よりも古いということはないはずだとしている。

21万年前にホモ・サピエンスがギリシャまで到達していたとしても、長くはそこに留まらなかったようだ。彼らは、現代の人類に遺伝的痕跡を残すことなく姿を消した可能性が高いが、ネアンデルタール人がもつホモ・サピエンスのものに近いDNAのなかに手がかりを残しているかもしれない。ネアンデルタール人と現生人類の間に異種交配があったことは、既に研究で知られている。

アピディマの化石は、ネアンデルタール人と出会って交配した集団に属していたのではないかと、ハーバティ氏は考えている。だが、もっと多くの証拠がない限り、この集団がどの程度広く分布していたのか、どれほど長く生きていたのかはわからない。

「いまは簡単なスナップ写真が1枚あるだけです」とデルソン氏は言う。「つまり、他を探す価値が明らかにあるということです」

(文 Maya Wei-Haas、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2019年7月20日付]

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