仕事の指示 相手がすぐ理解できる伝え方のコツ4つ
アニマル商事の新入社員の指導係に指名された入社3年目の営業女子、リス子。初めての後輩誕生にやる気全開だったのですが、そのうち後輩との温度差に気付いたようです。そこで、副業で経営指導をしているという噂のカフェの「るり子店長」に相談することに。
◇ ◇ ◇
リス子 「こんにちは! カプチーノショコラにキャラメルソースとクリーム増量でお願いします」
るり子店長 「いらっしゃい。今日はまた、いつにも増して大甘オーダーね。ストレスたまってる?」
リス子 「そうなんです! 聞いてくださいよ! ……私、新入社員の指導係を仰せつかったんです。かわいい後輩君が1日も早く仕事に慣れてくれるように、ビシバシいろんなことを教えて、リス子先輩スゴイ、って言われたかったんですけど……」
るり子店長 「?」
リス子 「教えても教えても、おんなじことを何回も聞くし、やっておいてと言ったこともやってくれないし。なんで分かってくれないんですかあ。報告書さえ提出してくれないんですよ。それくらい簡単な事じゃないですか」
るり子店長 「うわぁ、リス子ちゃんも、ついに後輩を育成するお年ごろになったのねぇ。大人になったわねぇ」
リス子 「『分かりました』と答えるから安心してたのに! 今日だって、報告書の書き方が間違ってたから、また説明したんですよ。分からないなら、分からないと言ってくれればいいのに……」
るり子店長 「それはね。本人は分かっているから、質問してこないのよ。自分なりに解釈してるのよ。リス子ちゃんと新入社員君の解釈が違うのね。伝え方を工夫しなくちゃ」
リス子 「え~っ、ちゃんと伝えてるつもりですけど……」
相手が安心して話を聞けるために、最初に伝えることは?
るり子店長 「伝えてるつ・も・り……なんでしょ? ……『伝えている』と言い切れてないわよね。リス子ちゃんは伝えたつもり病なのよ。処方箋出すわね」
リス子 「伝えたつもり病?」
るり子店長 「まず。リス子ちゃん、あれもこれも言わなくちゃ~って思って、一生懸命過ぎて、話長いでしょ」
リス子 「うっ。なんで知ってるんですか? だって、細かいところまであれこれ言わなくちゃ分かってもらえないんですよ~。話が長くなるのは当然でしょ? それでもダメなんだから……後輩君は、真剣さが足りないのかも」
るり子店長 「それがまずいのね。あれもこれも言うから、おなかいっぱいなのよ。話の中身が多過ぎるから、後輩君が好きなように整理して解釈するのよ。おまけに、何についてこれから話すのか最初に言ってないし、重要なことは最後に言ってるでしょ。最後だと疲れているからしっかり聞けてないのよ」
リス子 「え~、おなかいっぱい? たくさん話したらダメなんですか?」
るり子店長 「そうよ。まず、『これから何を話すか』という全容を言ってあげると、安心して聞けるわよね。何の話なのか分からないままだと不安だから、集中して聞けないの。例えば『これから説明する話は、報告書の書き方についてです』と言えば、これからの話は全部、報告書のことだと思って安心して聞けるのね」
リス子 「報告書の書類を見せながら話しているんだから、言わなくても分かると思ってました」
るり子店長 「その『言わなくても分かるだろう』が一番危険。言わないと、好きなように解釈しちゃうから」
言い方を変えるだけで格段に分かりやすくなる
るり子店長 「それから、『結論は、○○です』という言い方にするといいわ。
例えば、次のどっちが分かりやすい?」
Bパターン:「必須記入項目は、問題点と経緯と経費と今後の対処法です」
リス子 「Bパターン!」
るり子店長 「でしょ。『この書類を書くときに、〇〇ということを注意してください』ではなく、『この書類を書くときの注意点は、〇〇です』と言ってあげると、これから何を話すかが分かるわよね。さらに、話がまとまってすっきりして聞こえるわよね」
リス子 「書類を書くときの注意点は……と、最初に言うのがポイントなんですね」
るり子店長 「そう、聞く人が分かりやすいようにしてあげなくちゃね。そして、あれこれ話すのではなく、要点はせいぜい3つにまとめること。たくさん話をしても、ほとんど忘れるから」
リス子 「私もすぐ忘れちゃいます」
るり子店長 「そうね。リス子ちゃん、すぐ忘れるよね。ここまでの話は覚えてる?
一つ目は、最初にこれから話す全容は何かを伝える。二つ目が、1文で何を話すかを伝える。つまり『結論は、○○です』という伝え方」
リス子 「覚えてます~」
るり子店長 「じゃあ、もう一つだけ。1文も短くすること。リス子ちゃんはこんな話し方してるでしょ?
『必須項目は○○で、任意項目は▲▲で、提出日は今週末までで、提出先は総務課です』」
リス子 「そうですけど、何か?」
るり子店長 「1文は1属性にするといいのよ」
リス子 「1属性?」
るり子店長 「一つの文にあれもこれも入れてるのがリス子ちゃんの『伝えたつもり病』の原因なの。『必須項目は○○です。任意項目は▲▲です。提出日は今週末まで。そして提出先は総務課です』と言えば、1文1属性。多くても1文にせいぜい2属性までね」
リス子 「あぁ、そういうことかぁ」
文は短く、相手にまとめさせて理解度を確認
るり子店長 「では、ここまでのポイント3つを、まとめてみて!」
リス子 「え~っと……最初に、これから話す全容を伝える。『これから話す内容は、報告書の書き方です』」
るり子店長 「その調子!」
リス子 「そして、これから何を話すか、結論から伝える。『書くときの注意点は……』と言えば、これからの話は書くときの注意点だと思って話を聞いてもらえる」
るり子店長 「おぉ、リス子ちゃん、あと一息」
リス子 「そして、話を短くする。特に1文は1属性。『必須項目は、名前と所属と概要です』ということですよね~」
るり子店長 「そうそう、よくできました! ご褒美は、クルミ1個!」
リス子 「やった~!」
るり子店長 「今の3つの他に、もう一つポイントがあったの、分かった?」
リス子 「何ですか?」
るり子店長 「相手が分かっているかどうかを、一つずつ確認していくこと。今、リス子ちゃんに、分かってると思うことを話してもらったでしょ」
リス子 「あ~。そうか、伝わったかどうか相手に話してもらって確認するってことですかぁ」
1. これから話す全容を、ひと言でまとめて伝える
2. 文は結論から伝える
3. 1文は短く、1文1属性で伝える
4. 相手に話をまとめてもらい、確認する
るり子店長 「はい、そうよ~。上出来! ご褒美のクルミ、もう1個!」
リス子 「わ~い。ありがとうございます」
CHEERFUL代表取締役。人と組織を育成する専門家。管財商社に入社、業務改革をリード。30代前半で取締役に就任するもその後会社が倒産。「潰れない会社をつくるには組織の円滑なコミュニケーションが必須」と痛感、人と組織を育てる会議やコミュニケーションスキル育成に取り組む。著書「リーダーは話を1分以内にまとめなさい」「生産性アップ! 短時間で成果が上がる『ミーティング』と『会議』」「期待以上に人を動かす伝え方」など
(文 沖本るり子、イラスト つぼいひろき)
[日経doors 2019年5月20日付の掲載記事を基に再構成]
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