消える森の適地 いま再生なら100年分のCO2帳消し

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/7/20
ナショナルジオグラフィック日本版

ロシア、ボログダ地方を流れるボログダ川の空撮写真。ロシアは、新たな森を植林することで、排出された温室効果ガスを削減できる国の最有力候補だ(PHOTOGRAPHY BY VLADIMIR SMIRNOV/ TASS/ GETTY)

地球全体にどれだけ森が広がれるかを調べた初の研究によれば、現在、森林の再生が可能な土地は米国の広さほどもあるという論文が、2019年7月5日付けの学術誌「サイエンス」に掲載された。そのすべてが森で覆われれば、過去100年近くの二酸化炭素(CO2)排出量を相殺する実力があるという。

論文によると、既存の都市や農業に影響を与えずに、世界の森林は現在のおよそ3分の1増やせるという。しかし、地球の気温が上昇するにつれ、森に適した土地は減っていく。地球温暖化を世界的な目標である1.5℃に抑えられたとしても、一部の熱帯林は暑くなりすぎるため、森林再生に利用可能な地域は2050年までに5分の1ほど減ってしまう恐れがあるという。

「今回の研究は、森林再生が最善の気候変動対策であることを明確に示しています」と論文の共著者であるスイス、チューリッヒ工科大学の研究者トーマス・クロウサー氏は話す。

新たな森林が育つには何十年もかかるため、すでにある森林の保護や化石燃料の段階的な廃止が極めて重要であることに変わりはない、と同氏は声明で述べた。

「今、行動を起こせば、大気中のCO2を最大25%削減できます。これは、およそ100年前の水準に相当します」と同氏は話す。

ただし、CO2を十分削減できるほど森が成長するためには、100年以上もかかる。その間、化石燃料を燃やすことで、大気中のCO2は毎年400億トンも増え続ける、とノルウェー、国際気候環境研究センターで研究責任者を務めるグレン・ピーターズ氏は言う。

「気温上昇を1.5℃または2℃未満に抑えられる唯一の方法は、化石燃料を使わないようにすることです」と同氏はメールで述べた。

つまり、化石燃料を使用する新たなインフラの建設は許容できない。それどころか、2019年7月1日付けで学術誌「ネイチャー」に発表された論文によれば、既存の発電所の一部を早急に閉鎖する必要があるという。

その論文では、森林再生を通じてCO2を大幅に除去できれば、代替手段がまだない航空業界などから排出される温室効果ガスを相殺し、おそらく気温上昇の抑制にもつながるだろう、と述べられていた。

「木を植えることは誰にでもできます」

樹木に限らず、あらゆる植物は、光合成のために大気中のCO2と水を吸収する。それでエネルギーを得て、成長する過程で、酸素を大気中に放出する。木はCO2を吸収するほか、土壌が相当量の炭素を取り込むのを促進する。

今回の研究では、さまざまな生態系における森林保護区の高解像度衛星写真を8万枚近く調べ、それぞれの自然な樹木被覆レベルを突き止めた。それをグーグルアース・エンジンを使ったマッピング・ソフトウェアと組み合わせて予測モデルを作成し、世界中の潜在的な樹木被覆率を明らかにした。

その結果、国土の半分以上で森林を再生できるかもしれない国は、わずか6カ国しかないことが判明した。ロシア(1億5100万ヘクタール)、米国(1億300万ヘクタール)、カナダ(7800万ヘクタール)、オーストラリア(5800万ヘクタール)、ブラジル(5000万ヘクタール)、中国(4000万ヘクタール)である。これらの国々では森林の多くがすでに伐採されてしまっているため、逆にとても大きな可能性を秘めている、と論文の筆頭著者であるスイス、チューリッヒ工科大学のジャン=フランソワ・バスティン氏は言う。

「木を植えることは誰にでもできます。明日からでも始められます。森林を再生させれば、炭素の排出を削減するための時間が稼げるのです」と同氏は話す。

とはいえ、植林により炭素を貯蔵できても、花粉媒介者などの多くの野生生物を支えられるわけではない。花粉媒介者の減少がとても心配だ、とバスティン氏は言う。

「今回の研究は、気候と私たちの命を維持するシステムを守るためには、森林を人類の最良の味方として尊重する必要があるということを示している、と個人的には思います」と同氏は話す。

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