内定者のオヤカク対策に企業懸命 親に手紙、訪問も
今どき親子の就職活動(2)
就職活動における売り手(学生)優位が続く中、具体的なオヤカク対策を取っているのは中小規模の企業が目立つ。中小企業にとって、優秀な学生を採用できるチャンスは多くない。オヤカクに正面から向き合うことで、親の反対が原因で内定を辞退される事態を防ごうと懸命だ。
「我々のような大手ではない企業では、昔から親に応援してもらう環境をつくってきました」と話すのは、神奈川県を中心に不動産事業を展開するリスト(横浜市)の総務部課長、福林悠哉さん。
一人ひとりの親に手紙で採用した思いを伝える
内定を出す際には、なぜリストで働きたいのかを親に必ず伝えるよう促す。さらに、一人ひとりの親に会社から手紙を出す。「会社の現状に加え、なぜお子さんに内定を出したのかを、個別に書きます」(福林さん)
内定を出した学生が前年夏などのインターンに参加していた場合には、インターン中に行うプレゼンの様子を撮影した動画も一緒に送る。「それでもダメという親もいるが、多くは『よろしくお願いします』と言ってもらえる」という。
人材サービスのネオキャリアによる調査では、「内定をもらった新卒生が親の意向によって内定辞退を申し出てきたことがある」との回答は約5割、「親の意向で内定辞退をされないように、内定者の親に対して施策を実行している」は約3割にのぼった。
「地方出身者と、在学する大学がGMARCH(学習院、明治、青山、立教、中央、法政)レベル以上の人は、親に反対される率が高い」。就職情報サイト「しゅふJOB」などを展開するビースタイル(東京都新宿区)で採用責任者をつとめる中堂祥音さんはこう分析する。
「リクルーター面接で、学生が親の意向を口にするのは当たり前。女子学生のほうが男子学生よりも親との距離が近いようで、反対されることも多い」(中堂さん)という。実際、今年も地方出身で有名私大在学中の女子学生が母親の反対にあい、同社への内定を保留しているという。
同社の場合、新卒の内定を出す際に内定証書を渡し、本人と親のサインをもらっている。内定証書には手紙を添える。「スポーツをがんばってきた学生について、ゴールから逆算できる企画力や柔軟な協調性があり、一緒に働きたいと思っている……といったことを書きます」(中堂さん)
内定者全ての家庭を訪問する
家庭訪問をしている会社があると聞いて訪ねたのが、動画制作や動画関連のマーケティングを手掛けるLOCUS(東京都渋谷区)だ。瀧良太社長は、内定を出した学生すべての実家を訪問している。きっかけは、長崎県出身で都内の大学に通っていた男子学生に内定を出したところ、実家の両親から問い合わせが入ったことだった。
親を説得するつもりで意気込んで会いに行ったが、言葉がブーメランのように自分に返ってきた。「大切に育てたお子さんが働く場なのだから、もっと会社を成長させなくては」。そう痛感した瀧社長は、自分を叱咤(しった)する機会として、家庭訪問を毎年実施することを決意した。
これまでに、宮崎、北海道、京都などに行った。特に反対されていなくても会いに行く。すっかり仲良くなって、酒を酌み交わして帰ってくることも多い。オヤカクをポジティブにとらえて内定者、親、企業の対話を促すことは可能という事例だ。
就職は、社会への門出だ。企業側は「家族に応援されて門出を迎えてほしい」(ビースタイルの中堂さん)と考え、あの手この手で「オヤカク」対策を練る。
「結局は、親子のコミュニケーションの問題なんですよ」。就活学生と親を長く見てきたネオキャリア広報部長の橘兼太郎さんは言う。普段から就活や人生のビジョンについて話し合っている親子なら、オヤカクでこじれることは少ない。子の決意を応援できる親になれているか。親に自分の決意をはっきり伝えられるだけの人間に成長できているか。オヤカクは親子の姿をあぶり出す。
(藤原仁美)
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