経営はゴールのない駅伝 創業者からのタスキをつなぐ
キユーピー 長南収社長(下)

キユーピーの長南収社長
マヨネーズやドレッシングでトップシェアを誇るキユーピー。長南収社長(63)は「見えない経営資源を大切にできる会社ほど、どんな時代でも伸びていく」と語る。創始者、中島董一郎の理念を継承しながら、次世代リーダーの育成にも力を入れる。
――自分自身はどのようなタイプのリーダーだと思いますか。
「カリスマ性は乏しいかと思います。実は社長就任を打診された際も、恐ろしくて到底受けられないと言い続けていました。それでも今、経営の指揮を執ることができているのは、創業時からの経営理念があるからです。キユーピーでは地位の継承ではなく、理念の継承なのです。その理念が、上司にも臆することなく何でも言えるような社内風土を培ってきたのです。売上高が何兆円もあるような大企業で不正などの問題が起きることがありますが、当社ではまずないと思います」
「当社の連結売上高は18年11月期に5735億円と、この10年間で2割伸びました。平成の30年間でいえば売上高は2倍、営業利益で4倍です。この最大の原動力は理念にあると考えています。後輩たちには『良樹細根』という言葉も伝えています。花は枝に支えられていて、枝は幹に支えられていますが、幹を支えているのは根っこです。外から見えない根っこが理念なのです。理念が細く深く根を張っていれば、多少の嵐や大雪に襲われたとしても、花は咲きます」
――存在感のある創業家の下、リーダーシップを発揮することは難しくないですか。
「創始者はオーナーシップと経営を完全に分けました。創業家は別会社の中島董商店で広告宣伝やブランド機能を担い、経営は我々です。キユーピーのCMは商品広告よりも、野菜を使った食事の提案や食文化の提言などが多いのです。営業の現場からしたら、販売に直結する商品CMをもっと出してほしいと不満に思っているかもしれません。しかし、そうではないからこそ、一貫したブランド戦略を展開することができ、顧客との信頼関係を築くことができているのだと思っています」
原点は創業家を中心とした「家族経営」
「もし我々がCMや宣伝を主導したら、売らんがためのものになり、自分たちのエゴが出てしまうでしょう。どんな時代にあっても、ぶれずに自分たちの存在意義や会社の大切にしているものを訴えることができるのは理念があるからで、その原点は創業家を中心とした『家族経営』にあるのだと思います。こうした見えない経営資源を大切にできる会社ほど、どんな変化の中でも伸びていくことができるのではないでしょうか」
「創始者の中島董一郎にはマヨネーズを生活必需品にしたいという思いがありました。手が届く価格でなければ生活必需品ではありません。ですので、キユーピーは戦後、マヨネーズを13回値上げしましたが、24回値下げしました。利益率は決して高くありませんが、顧客や株主、取引先、従業員に絶えず利益を還元しています。生活必需品という役割を果たせない価格になったときには、顧客が離れていってしまいます」