週末の寝だめ 肥満・糖尿病のリスク高める可能性
平日に十分な睡眠を取ることが難しい人が、「週末にたっぷり眠って、少しでも健康を取り戻したい」と思うのは当然かもしれません。しかし、週末の寝だめが、肥満と糖尿病のリスクを高める可能性があることが、米国の若い成人を対象とする研究によって示唆されました。
睡眠不足が続いた後の寝だめは、健康への害をリセットできる?
睡眠不足は、日中の食べすぎや、体内時計の遅れを引き起こし、それらは、肥満とインスリン感受性の低下にも関係することが示されています。
血液中のブドウ糖を細胞内に取り込む(=血糖値を下げる)働きをするインスリンが、膵臓から適切な量分泌されている場合に、その作用が十分に現れているかどうかを示す言葉。インスリンの作用が十分に現れている場合は「インスリン感受性が高い」と言い、反対に、インスリンの効果が十分に得られない場合は「インスリン感受性が低い」または「インスリン抵抗性が高い」と言う。インスリン感受性が低い状態が続くと、膵臓のインスリン分泌機能が低下し、血糖値が上昇して、糖尿病(2型糖尿病)を発症する。
米国睡眠医学会などは、18~60歳の成人に対して、健康のために毎日7時間以上の睡眠をとることを推奨しています。しかし米国では、約35%の成人の睡眠時間がそれより短く、約30%の人が6時間未満しか眠っていないと推定されています。平日の睡眠不足を補うために、週末にはできるだけ睡眠をとる人が多いと考えられます。
これまでにも、「週末の寝だめに、睡眠不足の有害な影響を和らげる効果があるのかどうか」を調べる研究は行われてきました。それらの研究では、評価指標としてインスリン感受性、炎症性たんぱく質の血中濃度、血圧などを用いていましたが、得られた結果はまちまちで、週末の寝だめの健康への利益を明確に示せてはいませんでした。
そこで今回、米コロンビア大学ボールダー校などの研究者たちは、BMI(体格指数)が正常域にある健康な若い成人36人(男性18人、女性18人、平均年齢25.5歳)を対象に、睡眠不足が続いた後の寝だめが、体内時計と、エネルギー摂取、体重、インスリン感受性に及ぼす影響を検討しました。
異なる睡眠パターンを9日間実行し、影響を比較
参加者は、以下の3群に無作為に割り付けられ、指示された睡眠を9日間継続しました。
(2)短時間睡眠群(平日と週末の区別なく毎日5時間睡眠に制限):14人
(3)週末寝だめ群(平日は5時間睡眠だが、金曜夜から週末の間は好きなだけ眠ってもよい。その後2日間は再び5時間睡眠):14人
試験開始前の3日間は、全員に9時間眠る機会を与えて、通常の睡眠習慣(本人の体内時計)に従って眠るように指示したところ、平均8時間程度の睡眠をとっていました。
試験開始前はカロリーをコントロールした食事を提供し、試験中は食べたいだけ食べられる環境を提供しました。体内時計のずれは、試験開始前日と開始から8日目に、24時間の血中メラトニン[注1]濃度を測定して評価しました。インスリン感受性は、試験開始日と試験終了日に評価しました。
[注1]メラトニン:脳の松果体から分泌されるホルモン。血中濃度は夜間に高く、昼間は低く、その変化には明確なリズムが見られる。夕方から夜にかけて分泌が始まり、全身の細胞に夜が来たことを知らせて、睡眠や休息を促す。
週末寝だめ群は体重が増え、インスリン感受性が低下
対照群は、試験期間中毎日8時間程度眠っていました。短時間睡眠群は一貫して5時間弱で、試験開始前より有意に短くなっていました。
一方、週末寝だめ群は、平日の睡眠時間は5時間弱で、試験開始前に比べ有意に短く、週末の睡眠時間は有意に長くなっていました。金曜と土曜の夜から翌朝にかけては、どちらも9~10時間程度眠っていましたが、日曜の夜から月曜朝にかけての睡眠時間は6時間だったため、週末の3夜を合わせた睡眠時間は対照群に比較べ1.1時間長いに留まりました。
エネルギー摂取の総量は、どのグループも試験開始前に比べ増加していました。対照群と短時間睡眠群では試験期間中のエネルギー摂取量は一定でしたが、週末寝だめ群では週末に減少していました。夕食後のエネルギー摂取の総量に注目して比較すると、対照群に比べ短時間睡眠群と週末寝だめ群(週末を除く)では多くなっていました。
体重は、試験開始前に比べ全ての群で増加していましたが、統計学的に有意に増加していたのは、短時間睡眠群(1.4kg増加)と週末寝だめ群(1.3kg増加)でした。
体内時計の遅れは、夕方から夜にかけてメラトニンの分泌が始まる時刻を指標に評価しました。週末寝だめ群では、試験終了前日にはメラトニンの分泌が始まる時刻が1.7時間程度遅くなり、朝方に分泌が抑制される時刻も1.4時間程度遅くなっていました。短時間睡眠群でも、分泌が始まる時間に有意な遅れが見られました。
インスリン感受性は、短時間睡眠群と週末寝だめ群で低下していました。全身のインスリン感受性は、短時間睡眠群で13%低下、週末寝だめ群で27%低下していました。さらに週末寝だめ群では、筋肉のインスリン感受性も有意に低下し、肝臓のインスリン感受性も低下傾向を示しました。
以上の結果から、週末の寝だめは、体内時計の遅れを加速させ、体重を増やし、全身のインスリン感受性に加え筋肉と肝臓のインスリン感受性の低下も引き起こす可能性が示唆されました。
論文は、Current Biology誌2019年3月18日号に掲載されています[注2]。
[注2]Depner CM, et al. Curr Biol. 2019 Mar 18;29(6):957-967.
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。
[日経Gooday2019年6月18日付記事を再構成]
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