経済司法と会計監査の闇を突く 会計のプロの気迫
八重洲ブックセンター本店
入り口すぐのメインの平台で12列に並べて展示する(八重洲ブックセンター本店)
ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチしていくシリーズ。今回は定点観測している八重洲ブックセンター本店だ。ここでも10連休の影響で新刊点数が少なく、ビジネス書に勢いがなかったが、ようやく新刊も増え始め、徐々に売れ行きも戻りつつあるという。そんな中、書店員が注目するのは、経済司法と会計監査のあり方を実際に起きた事件をもとに考察した会計評論家の本だった。
自身の体験が出発点
その本は細野祐二『会計と犯罪』(岩波書店)。ビジネス書というより、ノンフィクション系の読み物といった方がいい。それも対象となっているのは司法だ。著者の細野氏は2004年、株価操縦事件に絡み有価証券報告書虚偽記載罪の共同正犯として逮捕・起訴され、無罪を主張したが、10年に有罪が確定した経験を持つ。この経験を通じて抱いた公認会計士監査と特捜検察による経済司法への疑問が本書の出発点となる。
記述の中心となるのは厚生労働省の村木厚子氏が逮捕された郵便不正事件の分析だ。全12章のうち半分の6章がその検証にあてられる。検証に先立つ自身の裁判を振り返る中で「私は会計の適正性と司法の虚偽記載の関係について深く考えざるを得ませんでした」と著者は書く。自身の有罪判決と村木氏の無罪判決は虚偽記載、虚偽公文書という一点でつながってくる。両者を分けたものは何だったのかを探ることが、郵便不正事件の丹念な検証のねらいだ。
日産ゴーン事件にも言及
最初の郵便不正事件から始まり、村木氏逮捕につながる虚偽公文書事件、そしてその過程で起きた検察内部での証拠改ざん事件まで、郵便不正事件全体のプロセスを細かく検証することで、特捜検察の存在意義やその組織文化に潜む問題点が浮かび上がってくる。そしてさらに経済事件の立件に絡む、世論と検察・裁判所との関係へと論をすすめ、最後に日産ゴーン事件への考察を繰り広げる。