「リトル孫正義」が続々 財団に集う異才が世界変える
ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長が資金を供出し、優秀な若者の研究活動などを支援する財団法人「孫正義育英財団」。5月27日に都内のホテルで10歳から25歳までの男女を対象にした最終選考会を開いた。人工知能(AI)やロボットなど様々な科学分野に携わり、起業なども夢見る「異才」が集結。孫氏のほか、ノーベル生理学・医学賞受賞者の山中伸弥・京都大学教授や将棋の羽生善治九段、東京大学の五神真学長らが審査するなか、自らの研究成果やビジネス目標を披露。まさに「リトル孫正義」という面々だ。異才はイノベーションを起こし、世界を変えられるのか。
「実は私も石が大好きなんです。松下さんは月面に岩石を自ら採りに行きたいと考えていますか」。最終選考に残った44人のうち22人が2分間のプレゼンテーションを行ったが、山中教授は岩石の研究をしているという松下宗嗣さんにこうたずねた。松下さんは「私は無重力状態の岩石に興味がありますが」と早口で語りだし、最新技術を活用すれば、リモートでも月面の岩石は採取できると専門用語を交えながら詳細に説明、その博識ぶりに山中教授も思わず苦笑いした。
孫財団は2016年に優れた才能を持つ若者を発掘・支援するプロジェクトをスタート。海外留学や研究のサポートや事業への寄付などをしている。1期と2期で計145人が選ばれ、国内外で活動している。渋谷のほか米国のボストンとパロアルトに専用施設も設置しており、メンバー同士が議論したり、一緒に研究する場として活用している。
3期の候補生も多士済々のメンバーが集まった。世界を舞台にし、有名な大学教授と共同研究し、論文を発表したり、実際のビジネスプランを策定している候補生も少なくない。東大医学部3年生の川本亮さんは「ハエはすごいんです。生ゴミ削減の救世主にもなる」と解説。ハエの幼虫を活用した生ゴミ分解の処理装置も開発、実用化の一歩を踏み出している。東大総長賞も獲得、研究面からも高い評価を得た。
「ロボット少年」や「数学の天才児」もいる。小学校3年生のときに世界最年少でロボット世界大会「WRO」に出場、2年連続入賞し、「次は優勝し、留学して起業したい」と小助川晴大さん(10歳)が熱く語れば、11歳の高橋洋翔さんは「数学検定1級に最年少で合格した。いま双子素数を研究中ですが、未解明の数学を早く解き明かしたい」と沈着冷静に話す。海外在住で英語でプレゼンする人もいれば、インドネシアなど外国籍の女性もいる。
聞く側の孫氏の表情は真剣そのもの。各人のプレゼンにじっと耳を傾け、ほとんど笑顔を見せることがなかった。未来のある人材を支援する「足長おじさん」ではなく、世界有数の投資家の顔をのぞかせていた。様々な物質を研究している川口さんに「先日、カリフォルニアに行ってきたけど、そこにAIを活用して効率良く新しい物質と効能を次々発見している会社があるから行ってみたらいい」と具体的なアドバイスをする。
世界中の企業を訪ね歩き、投資を繰り返し、失敗も積み重ねてきた孫氏。資産家だから若者を支援するという「甘いご仁」ではない。孫氏の厳しい目線にかなった異才の中から世界の常識を覆す技術やビジネスモデルを生み出す人材が誕生するかもしれない。
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