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エベレストの登山渋滞 惨事を防ぐには何が必要か

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/6/15

バルコニーと呼ばれる地点を通りエベレスト山頂に向かうルートを進む登山隊。2019年、ネパールは最多記録となる381通の登山許可証と、およそ同数のガイドとシェルパ用の許可証を発行、エベレストの混雑を招いた(PHOTOGRAPH BY MARK FISHER/FISHER CREATIVE, NATIONAL GEOGRAPHIC)

中国は、許可証の発行数をはるかに少なくすることで、中国側のエベレスト混雑の問題を最小限に抑えている。

ジョンズ氏は、一部のガイドサービスの質にも言及する。「エベレストについて概観したとき、私が最大の問題と考えるのは、経験の浅い人や実力のない人を引き受けて登山させる地元企業です。関係者は耳を塞ぎたいでしょうけれど」

今年8000メートル峰で亡くなった21人の登山者のうち15人は、国際ガイドサービスの顧客ではなく、ネパール人が主催した登山隊の顧客だった。

「私たちは、どうやって混雑を避けるか、常に戦略を立てています」と同氏は説明する。「キャンプを発つ時間を数時間早くまたは遅くすると、まったく違う一日にできるのです。これがエベレストに関する決断のもう1つの面です。欧米のガイドサービスは互いに連絡を取り合っていますが、その他の事業者は違います」

これはデリケートな問題だ。ネパールの登山産業は儲かるため、欧米のガイドが長く独占してきた。ネパール人オーナーの企業が大きく進出し始めたのは、わずか過去10年ほどのこと。主に外資系企業よりも料金をはるかに低くすることで、顧客の望みに応えたのだ。

混雑が直接の死因ではないとしても、登頂に要する日数が長くなることが、リスクが増す原因であることに疑問の余地はない。エベレスト登山の力学を完全に変えてしまったのだ。

今シーズン、ネパール側からエベレストに挑んだドイツの登山家デイビッド・ゲトラー氏は、無酸素登頂を試みたが、結局、山頂まで200メートルの所で引き返さざるを得なかった。混雑によるリスクを許容できないと同氏は判断したのだ。

「たとえ今すぐ下山したいと言ったとしても、ほかのすべての下山中の人の列に並ばなければならないのです。体を暖かく保つのに十分な速さで動くこともできません」と同氏は説明する。「それは取るつもりがなかったリスクであり、大惨事につながる可能性が非常に高いものだったのです」

ゲトラー氏はこう続ける。「そうなることは予測できていました。エベレストに行って、混雑や技術に不平を言うのは誠実ではありません。メディアではよく取り上げられるでしょうが、モンブランやマッターホルンも同じなのです。私たちプロは、こうした場所に探検に行くのがいかに素晴らしいか、世界に伝えているのです。混雑するのも当然です」

ベン・ジョンズ氏もエリック・マーフィー氏も、10年以上もの間、顧客と共にエベレストに登ってきたことに触れ、否定的な報道が続いていることを嘆く。「人間関係を築けば、その目標を達成するうえで培った友情は特別なものになります」とマーフィー氏は語る。

「家に帰ると、友人や家族から、現地で何が起きているのかを聞かれます。彼らが耳にするのは、毎年報道されるこうした否定的な内容ばかりだからです。しかし、それは真実ではないと私は思います」とジョンズ氏。「登山で悪い結果を招くのは、1つの決断ではなく、判断ミスを重ねることなのです」

(文 FREDDIE WILKINSON、訳 牧野建志、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2019年6月1日付]

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