惰性で大酒続けた人を襲う「重症型アルコール性肝炎」

日経Gooday

写真はイメージ=(c)Donato Fiorentino-123RF

まずは対策から。重症型アルコール性肝炎はもちろんだが、その前段階のアルコール性肝炎にならないためには、具体的にどういうところに注意すればいいのだろう? 先生、やっぱり酒量を控えることが先決なのでしょうか?

「はい、何と言っても酒量を抑えることが第一です。アルコール性肝障害のリスクが高くなると言われる1日当たりの酒量は、純アルコールに換算して60グラム。日本酒で言うなら3合です。このくらいの量を日々飲んでいる人は少なくないでしょう。これを適量と言われるアルコール20グラム、日本酒1合に抑えるように心がけてください。個人差はありますが、特に肝機能異常を指摘された場合は飲酒量を抑えるのが原則です」(浅部さん)

そして浅部さんは、「前述したように、倦怠感や食欲不振などがあり、調子が悪いときはアルコールを飲まないことが大事です」と話す。肝機能が落ちているときにアルコールを飲むと、いつもの量であっても肝臓のダメージがさらに大きくなる。負のスパイラルに陥らないためにも、「惰性で飲まない」ことが大切だ。

浅部さんがこれまで診てきた重症型アルコール性肝炎に罹患した人は、1日に純アルコールで100~200グラムを超えるような酒量の人はざらだったという。これは相当な酒量だ。「アルコール依存症、もしくはそれに相当する方です。過剰飲酒を続けることは依存症になるのはもちろん、肝臓に致命的なダメージを与えるということを認識してください」(浅部さん)

なお、女性も注意していただきたいと浅部さんは警告する。「女性は、男性よりも肝臓が小さく、肝臓の処理能力が低い傾向があります。女性のほうが少量、短期間での飲酒で重症化しやすいのです」(浅部さん)

■ALTが高い人、アルコール性脂肪肝の人は酒量を減らそう

最後に、重症化する前に危険を察知する方法について浅部さんに聞いた。素人レベルでも分かる健診結果の数値、あるいはカラダに出る症状などから、事前に察知することはできないだろうか。

「ポイントの1つは黄疸をいかに早く発見するかです。私が実際に患者に聞くのは、尿の色です。紅茶のような濃い色になっていると、黄疸が出ている(ビリルビンの数値が上がっている)可能性があります。また、ビリルビンの数値は、その人の肝機能がどのくらい維持されているかの目安になります。正常なビリルビン値はおおむね1mg/dL未満です。酒量が多いなど、何らかの心当たりがある人が、2mg/dLを超えたら注意が必要です。そもそも、ビリルビンの上昇を心配するような段階では禁酒が必要なのですが」と浅部さん。

人間ドックの結果例。ビリルビンは通常の健診の検査項目には含まれていないが、人間ドックならたいてい含まれる

ただし、このビリルビン値は、人間ドックの検査項目にはたいてい含まれているが、一般的な健康診断の結果には含まれていない。

職場で受ける健診結果の肝機能のデータなどから察知することはできないだろうか。

浅部さんは、「残念ながら、年に1回受ける健診のALTやγ-GTPなどの数値から察知することは難しい」と話す。

ただし、ALTなどの数値には注意を払ってほしいと浅部さんは話す。「ALTやγ-GTPは肝臓の状態(壊れ方)の指標となる数値です。お酒を飲んでいる人が上がってきたら、それは明らかに病気がジワジワと進んでいることを示しています。酒量を減らす必要があります。肝臓専門医としてはALTが基準値の30U/Lを超えた時点で注意してほしいですね」(浅部さん)

実際、浅部さんは、これが当てはまる人に対して、アルコールが原因かどうかを明確にするため、試験的にアルコールの量を減らす、または断酒することを勧めているという。「その結果、数値が改善したら間違いなくアルコールが原因なので、以後、飲酒量を控えればアルコール性肝炎、さらには重症化するリスクが軽減します」(浅部さん)

また、「アルコール性の脂肪肝がある場合は、過剰飲酒になっている可能性が高いわけですから当然、注意が必要です。酒量を減らすことをお勧めします」(浅部さん)。下の図にあるように、脂肪肝は大きく、「アルコール性」と「非アルコール性」に分けられ、1日のアルコール摂取量が60グラム以上の場合は「アルコール性」と判断される。

◇  ◇  ◇

今回の取材で、冷静に話す浅部さんの話を聞いているうちに、「もしかしたら自分も重篤な肝臓病に罹患する可能性があるのではないか?」と怖くなった。もちろん過剰飲酒が最大の原因であるとはいえ、なる人とならない人がいて、その理由が明確に分かっていないというのも恐怖をあおる。

酒量を抑えるのはもちろんだが、特に痛感したのが「惰性で飲まない」ことの大切さ。調子が悪く、肝機能が悪い状態で飲めば、肝臓のダメージは大きくなる。「二日酔いは飲んだら治る」なんてとんでもない。惰性飲みによって、重症型アルコール性肝炎に陥る「魔のスパイラル」に入らないように注意が必要だ。また、定期的な健診などでALTなどの数値をチェックし、基準値を超えるようなら酒を控える。当たり前のことを着実に実行したい。

(エッセイスト・酒ジャーナリスト 葉石かおり)

浅部伸一さん
自治医科大学附属さいたま医療センター消化器内科元准教授。1990年東京大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院、虎の門病院、国立がん研究センター、自治医科大学などを経て、米サンディエゴのスクリプス研究所に肝炎免疫研究のため留学。帰国後、2010年より自治医科大学附属さいたま医療センター消化器内科に勤務。現在はアッヴィ合同会社所属。専門は肝臓病学、ウイルス学。好きな飲料は、ワイン、日本酒、ビール。

[日経Gooday2019年5月7日付記事を再構成]