デキる後輩に比べて自分は… モヤモヤが晴れません

週1日、昼間だけオープンする桃源郷のような「昼スナックひきだし」。今日も真っ昼間から「意識高い系スナック」の紫乃ママの元に、悩める女性が心の潤いと福音求めてご来店。グラス片手に、ナッツをつまみながらの脱力系お悩み相談…いやいや、特濃スナックトークが始まります。寄ってって!
紫乃ママ いらっしゃい。あれ、今日は休み? なんかモヤモヤオーラが出ているけど、どうした?
晴美 最近、ものすごく仕事ができて気配りも完璧、おまけに美人と、非の打ち所がない26歳が転職してきたんです。その後輩のキラキラオーラに圧倒されて、自分を卑下してしまい、なんだかモヤモヤしちゃって……。
住宅販売系企業一筋22年。産休・育休を挟んで人事、財務、経理を10年以上担当しています。これまで、目の前にある仕事を真面目にこなして会社に貢献してきたという自負はあります。だけど、半年前にとてつもなく仕事ができて性格もいい26歳の後輩が転職してきて、戸惑っています。転職してすぐになんでも自分以上にこなす彼女を見て「これまで私がやってきたこと、積み上げてきたものって何だったんだろう……」と自問自答するようになりました。
紫乃ママ いわゆる「女子力が高い」だけではなく、仕事への意識が高くて賢い、視野も広い若い女性は増えていると思う。私たちアラフィフが入社した時は、一人一台パソコンがなくてDOSコマンドとか使っていた時代。キャリアアップの意識なんて持っている人のほうが少なかったし、時代背景が違い過ぎるよね。私たち中年が20年かけて手探りでやってきたことを、ひょいっとやってしまう。その適応力の高さに面食らう感じはあるよね。
晴美 正直、自分が26歳の時はあんなこともこんなこともできなかったのに……と後輩を見て、自分にがっかりしているんです。
紫乃ママ その後輩、きっとネイルもいつもキレイでしょ?
晴美 そうなの!
紫乃ママ そんでもって、きっとボランティアとか社外活動もたくさんしているでしょ?
晴美 そうなの、大正解! 初めて私の部署に入ってきた瞬間から輝きオーラを放っていました。あの存在感はいったい何? 「それに比べて自分は何者でもない」と思ってしまうんです。
紫乃ママ 晴美さんだって22年も一つの会社に勤めているんだから、何者でもないってことはないでしょ。
若くてデキる後輩の「青い芝生」と比べない
晴美 振り返れば、私はただ「目の前にある仕事」を粛々とやってきただけなんです。でもその後輩は、資料の作り方や会議での発言、すべて「一歩先を見越した仕事」ができていて。転職してきた数日後に完成度の高い業務改善案を出してくれて「あわわ、すごい!」って感動しました。彼女は仕事で明確な夢があるそうなんです。意識して自分のキャリアを歩んでいる感じで、本当に素晴らしいと思います。
紫乃ママ 話を聞いていると、その後輩に対して嫉妬をしたり嫌がらせしたりせずに、「すごい」「素晴らしい」って言える素直さは、晴美さんの美徳であり、強さだと思う。 「何者でもない」って晴美さんは落ち込んでいるけど、これまで一つの企業で財務も経理も人事も営業もカスタマーサポートもやってきたんでしょ?
晴美 でもそれってみんなできることですよね。特殊な能力は必要ないですよ。本当に「言われたことだけをやってきた45歳」ですから。それに対して、彼女は言われる前にできている。すごいと思うのと同じくらい、自分を卑下してモヤモヤが募るんです。急に自信がなくなってしまいました。
紫乃ママ 「みんなができる仕事だと思っていた」と言う人は多いけど、なんでそんなに自分のやってきたことを軽んじるのかな(笑)。もちろん専門性が高い人はすごいけど、経理だけやるならマシンでもいい。経理で培った数字のカンが人事で生きたり、財務で身に付いた会社全体を数字から見る経験が営業で生きたりすることだってあるでしょ? 職業人としての総合力は、いろんな経験があって組み合わせられる晴美さんだって高いはずでしょう。
まずは若くて優秀な子と比較し過ぎないこと。生きてきた時代背景が違うんだから、比べることに意味はないの。
優秀な後輩はライバルではなく味方。協業できれば最強
晴美 確かに、経理部で培った数字感覚が人事部で役立って他人の大きなミスに気付けたことが何度かあります。いろいろな経験を持っていることが「自分の強み」と言っていいんでしょうか。何にもないと思っていたけれど……意外にあるのかな。
紫乃ママ 大企業に長くいる人は、複数の部署を転々としていて「自分は専門性がない」と言う人が多いんだけど、「専門性がない」ことはむしろ売りにもできる。複数の部署で失敗も含めたいろんな経験を積んでいること自体が財産でもあるの。若い子は知識があっても「経験の幅」は少ない。その後輩は、意外に失敗には弱いかもしれないよ。
晴美 彼女はたぶん失敗したことがないと思います。過ちを失敗にしないようにコミュニケーション力でカバーしている面もありますが。
紫乃ママ 「私、失敗しないので」って、米倉涼子かよ(笑)。失敗も「経験の幅」の一つだからね。
そういう優秀な若い子には、仕事をどんどん振ってやってもらう。「○○さん、すごい!」と、褒めてどんどんやってもらえばいい。でも、交渉とか社内調整とか経験がものをいう面倒なところは晴美さんが手伝ってあげる。社内の人間関係だってあなたのほうがよく知っているわけだし。「先輩やっぱりすごい!」「こういうのは私に任せといて」ってうまく協業ができれば最高よね。

晴美 確かに、社内事情や社内の仕組みは私のほうが詳しいから、力になれそうです。
紫乃ママ 私たちの世代が若い後輩女子をライバル視するのは本当に無駄。彼女たちの力になってあげて味方につけられるほうが絶対に得になる。「無敵とは敵がいないこと」なんだからさ。比べて悲観したり、自分を卑下したりするんじゃなくて、サポートしてあげながらどんどん任せればいいから。
むしろ私は、男性のほうが「年齢」でマウンティングしたがる人が多いなあって感じる。1歳でも年上だっていうだけで「俺の方が偉い」と信じている。いや、信じたいのよね。でも、「年齢と体重は記号」っていうのが私の持論。リスペクトできる人は年上だろうと年下だろうと関係ないよね。大事なのは魂の成長レベルだと思う。私もよくイケてる若い子に会って「うわっこの子、魂年齢1万26歳だわ」と思うことあるよ。
後輩のスキルを見極めて伸ばすのも、先輩の仕事
晴美 そういえば! 最近、男性上司が私に対してすごく高圧的で、マウンティングしてくるんです。その上司が仕事ができる後輩に変なことをしないかすごく心配で。
紫乃ママ ほら、後輩のために晴美さんがやれることあったじゃない。後輩を守ってあげるのも先輩の仕事。後輩が伸び伸びと活躍するためのじゅうたんを敷いてあげる、土台を作ってあげる。
晴美 私、その後輩を守ってあげたい……それならできる気がしてきました。
紫乃ママ 男でも女でも「自分の立場が脅かされるかも」という理由でデキる後輩を敵視してしまう、相手の年齢が下というだけで「自分よりできない」と決めつけてしまう人が結構いるのよね。晴美さんみたいに「私がやれることをしてあげよう」と素直に思える人はまだまだ少ない。
今は転換期。ベテラン世代は、若い人たちのスキルを見極めて、それを伸ばす機会を作ってあげることが本当の役割だと思う。どんどん仕事を任せる。押し付けるんじゃなくてね。そして支援もしてあげる。世代間の逆転があろうと「やれることをやれる人がやる」と認められれば、お互いきっと楽になるはずだから。
晴美 本当に非の打ち所がなくて、素晴らしい子だから、実は最近「これは恋ではないか」と思うくらいに憧れ始めています。
紫乃ママ なんと、いきなり恋!(笑)。そう思えるなんてすてきだよ。普通は年下に対してそういうふうに思いづらい心のハードルがあるじゃない? でも、「年下のくせに」ってダメなところを探しても何もいいことはない。年齢にかかわらず、周りにリスペクトできる人がいるのは幸せなこと。嫉妬や敵意ではなく、恋愛対象になりえるくらいの好意を持っているということは……つまり、「無敵」への近道じゃない? うん、それが恋でもまったく問題なし!

(取材・文 市川礼子=日経ARIA編集部、写真 洞澤佐智子)
[日経ARIA2019年3月26日付の掲載記事を基に再構成]
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