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米中摩擦「どういう世界を目指すのか」 丹羽宇一郎氏

2019/5/16

――丹羽さんは常々、国が号令を掛け、型にはめて組織や国民を動かそうとする「縦型社会」のリスクを指摘されていますね。

そう、例えば国が旗を振る「働き方改革」にも疑問を持っています。業種や組織、業務内容によって、どんな働き方が効率的なのかはまるで違うし、同じ仕事をしていても人によって違う。それなのに一律に勤務時間を決めたり、残業規制をしたりして、型にはめようとする。効率的な働き方はそれぞれが考えることであって、上から押し付けるべきではない。

「コーポレートガバナンス・コード」が上場企業に求める社外取締役の選任もそうです。私自身、何社かの社外取締役を経験しましたが、その会社の事業を経営陣より詳しく知ることなど無理です。また、役員人材不足の日本では、同じ人が何社も掛け持ちする場合が多い。そんなに多忙でまっとうな意見が出るのでしょうか。

実際、経営者に本音を聞くと、「社外取締役はほとんど役に立っていない」という声も多い。ガバナンス強化に取り組んでいる姿勢を見せるための「ウインドー・ドレッシング(陳列窓の飾りつけ)」に多額の報酬を払っているケースが少なくないのです。

もちろん、社外取締役の存在が機能して、経営に好影響が出ているケースもあるでしょう。だったら会社の大小、文化の違いも無視し一律に導入を勧める前に、社外取締役の経営への影響を調査し、科学的に効果を検証すべきです。その上で、各企業が自社のガバナンス強化に最も効果的な手段を選ぶべきではないでしょうか。

――難題が山積する日本ですが、より良き未来のために、どんな取り組みが重要だと考えますか?

一つは、日本社会が直面している問題から目をそらさず、謙虚に向き合うことです。そして、不条理なことには反対の声を上げること。おかしいと思っても、黙っていたら賛同したのと同じです。

皆さん、仕事や日々の暮らしで忙しいでしょう。でも、「この政策はおかしい」と思った時、デモに駆けつけることはできなくても、新聞の投書欄にはがきやメールを送り、意見を表明することはできるはずです。たった1枚のはがき、1通のメールでも、1000万人が行動を起こせば社会を動かす力になる。

一人の行動だけでは社会は急に変わりません。でもその行動なくしては、何も変わっていきません。日本の未来をつくるのは、一人ひとりの小さな一歩なのです。

『日本をどのような国にするか──地球と世界の大問題
丹羽宇一郎著/岩波書店/760円(税別)
急速な少子高齢化、深刻化する人手不足、低下する国際競争力、相次ぐ自然災害など、日本の未来に立ちはだかる難題の数々。経営者や駐中国大使として長きにわたり活躍し、豊富な経験を持つ著者が、日本が直面している課題の本質を鋭く指摘。環境問題、震災対策やAIなど様々な分野の専門家との対談を通じて、混迷の時代に日本が進むべき道を示すとともに、一人ひとりがこうした「不都合な真実」から目をそらすことなく、自ら問題に向き合おうとすることの大切さを説く。
にわ・ういちろう
1939年愛知県生まれ。名古屋大学卒業後、伊藤忠商事に入社。98年同社社長に就任。2004~10年、同社会長を務める。日本郵政取締役、国際連合世界食糧計画(WFP)協会会長などを歴任し、10年に民間出身で初めて駐中国大使に就任した。現在は公益社団法人日本中国友好協会会長、福井県立大学客員教授などを務める。

(撮影/福知彰子 取材・文/佐藤珠希)

[日経マネー2019年5月号の記事を再構成]

日本をどのような国にするか: 地球と世界の大問題 (岩波新書)

著者 : 丹羽 宇一郎
出版 : 岩波書店
価格 : 821円 (税込み)

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