相続ルール改正 配偶者が自宅に住み続けられる権利も
知って得するお金のギモン
今年は「令和」への改元、消費税率の引き上げと大きな変化が目白押しですが、民法の「相続」に関わる部分にも大きな改正があります。今回は、主要な3項目について解説します。
相続というと大金持ちの話と思われる人が多いのでは。現実には、資産の多い人は事前に相続対策をしていてもめることは少なく、逆に相続財産が自宅と数千万円の金融資産だけの場合にもめることが多いのです。相続でもめるのを防ぐために有効な方法が遺言です。
遺言を残す方法には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。このうち公証人という法律のプロに作成などをお願いする公正証書遺言が主流。というのも遺言には一定のルールがあり、ルールに反した書式だと効力がなくなってしまうからです。
しかしプロに頼めば手数料がかかり、遺言の内容を変更するたびに費用が発生します。それに対し自分で遺言を作成する自筆証書遺言は、費用がかからず、後から自由に内容を変えられますが、ルールに沿って作るのが面倒な点がありました。
今回の改正で自筆証書遺言のルールが簡素化され、ハードルが下がりました(施行済み)。
具体的には、今まで直筆が義務づけられていた、遺言書に添付する「財産目録」をパソコンで作れるようになり(*)、財産の状況が変わったときに手軽に修正できるようになりました。また、自筆証書遺言を法務局で安全に保管してくれる制度(要手数料)が創設され、紛失や改ざんの心配がなくなりました。
特に、子供のいない人や、自分の気持ちを遺族に伝えたい人は、遺言を作るのがおススメ。今回の改正を機に検討してみてはいかがでしょうか。
*:自筆証書遺言のうち財産目録以外の部分はこれまで同様、手書きする必要がある
「資産の大半が自宅」でも、もめずに済むようになる?
次は「配偶者居住権」の創設。
ある人が価値4000万円の自宅と2000万円の金融資産を残して亡くなり、相続人は配偶者と子供の2人の場合を考えます。親子で争いとなり法定相続分で分けることになると、配偶者の取り分は2分の1の3000万円。しかし「3000万円分の財産」はないため、自宅を売却せざるを得なくなることもあります。
そこで今回、自宅にそのまま配偶者が住み続けられる権利が創設されました(2020年4月1日施行)。上記の例では、配偶者居住権の評価が2000万円なら、配偶者はこの権利を相続して死ぬまで家に住み続けられ、かつ金融資産1000万円を相続して当面の生活資金も得ることができます。子供は、自宅の価値から配偶者居住権を引いた2000万円分と金融資産1000万円を相続し、配偶者の死後には自宅を相続税不要で引き継げます。
配偶者居住権の評価額は、建物の残存耐用年数と配偶者の平均余命などから計算します。
最後は「特別寄与料」。病身や認知症の親の面倒を見るのは相続人とは限らず、例えば「息子の嫁」や、独身の人の姪(めい)、甥(おい)というケースも多いのでは。従来の民法では、こうした貢献は制度として保護されておらず、相続財産を得られない人もいました。今回の改正では貢献した人が、相続人に対して金銭的な請求をすることを制度として認めました(今年7月1日施行)。請求のためには日記や領収書などで、しっかりと証拠を残すことが必要です。
3点とも少子高齢化という現在の社会に合わせた改正といえるので、相続が発生しそうな場合には意識してみてください。
今月の回答者
税理士。大手簿記学校の税理士専任講師を経て、2006年に望月茂税理士事務所を開設し、代表に。税金のお得情報や、確定申告・相続税のノウハウなどを分かりやすく解説。
[日経ウーマン 2019年6月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。