MET「ニーベルングの指環」 ジョルダンの指揮抜群日本で「ワルキューレ」のライブビューイング公開

「音楽の友」誌2019年5月号に載ったジョルダンのインタビューでは小林伸太郎氏の質問に答え、ワーグナー指揮の極意をこう語っている。

「若い指揮者は音楽を小さなユニットに分けてコントロールしようとする傾向にありますが、そうするにはワーグナーは長すぎます。より大きなユニットで全体の流れを捉える必要があります。若い指揮者はまた、スローなテンポはさらにスローに、速いテンポはさらに速くして大きなコントラストを得ようとしがちですが、特にワーグナーではラインを理解するために、音楽の流れが必要です。すべての音とコンテンツを理解するためにはテンポが速すぎてもいけません」

「神々の黄昏」のブリュンヒルデ(クリスティーン・ガーキー、左)とジークフリート(アンドレアス・シャーガー)(C)Ken Howard(メトロポリタン歌劇場提供)

自然な呼吸に徹する

その言葉通り、ごく自然な呼吸に徹し、おそらくドイツのどのオーケストラよりも輝かしく精妙にワーグナーを再現できるMET管の機能と音色美を最大限に引き出しながら大きな流れをつくり、劇のクライマックスに導いていく。ルパージュ演出は大がかりで抽象的なハイテク装置と映像を組み合わせたビジュアルの割に、人物の動きや性格描写は控えめなので音楽が前面に出てくる。うっかりすると、ジョルダンとオーケストラが紡ぎ出す極上の響きだけで「満足」の域に達してしまいがちだが、そこはMETの「リング」、歌手にも世界ランクの強豪をそろえ、管弦楽と見事に対峙させながら、ハーモニーに溶け込ませる。

中でもガーキーは今回、METでは初めてのブリュンヒルデを歌う注目株だった。大柄で目力のある容姿、たっぷりとした低音の支えの上にクリーミーな美声が広がり、高音の張り出しにも威力がある。ドイツ語の発音も確かで、しみじみとした語りかけと劇的迫力を兼ね備える。「神々の黄昏」だけでなく「リング」全体の大詰めである「ブリュンヒルデの自己犠牲」の場面でも十分な余力をみせて歌いきり、大喝采を浴びた。

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「ワルキューレ」ではもう1人のドラマティック・ソプラノ、ジークリンデ役のオランダ人エヴァ=マリア・ウェストブルックが高い評価を得ている。2001~05年、クラウス・ツェーラインがインテンダンント(総裁)だった時代の独バーデン=ヴュルテンベルク州立シュトゥットガルト歌劇場の専属歌手として演技力を磨き、頭角を現した。

現在はフリーでロンドン・コヴェントガーデンのロイヤルオペラを中心に活躍し、METには2011年のルパージュ演出「ワルキューレ」のジークリンデ役でデビュー。日本にもNHK交響楽団の定期演奏会で「エレクトラ」(シャルル・デュトワ指揮、クリソテミス役=2003年)、「ワルキューレ」第1幕(エド・デ・ワールト指揮、ジークリンデ役=2012年)と2度の演奏会形式上演に登場、多くのファンを獲得した。そのウェストブルックに2019年4月23日、METプレスルームでの単独インタビューが実現した。

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