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MET「ニーベルングの指環」 ジョルダンの指揮抜群 日本で「ワルキューレ」のライブビューイング公開

2019/5/11

「ワルキューレ」の戦乙女たち(C)Richard Termine (メトロポリタン歌劇場提供)

ニューヨークのメトロポリタン歌劇場(MET)が2019年3~5月、ワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環(リング)」4部作の連続上演を6年ぶりに行っている。「魔術師」の異名を持つカナダ人ロベール・ルパージュによるSFX(特撮)映画顔負けの演出、米国人ドラマティック・ソプラノのクリスティーン・ガーキーをはじめとする豪華キャストなど話題満載の舞台をけん引し、圧倒的称賛を浴びているのが指揮者のフィリップ・ジョルダンだ。

日本でも第1日「ワルキューレ」の「METライブビューイング」が松竹の配給で、5月10日に公開された(16日まで)。

■11年ぶりのMET登場

指揮者のフィリップ・ジョルダン(松竹提供)

ジョルダンは1974年、スイスのチューリヒ生まれ。父のアルミン・ジョルダン(1932~2006年)もワーグナーを得意とした指揮者だったため、フィリップは20歳から「リング」の上演にかかわった。METの「リング」では1993年の上演に観客の立場で接して強い印象を受け、26年後に指揮者として、ピットに戻ってきた。

ルパージュ版「リング」は2010年から順次初演。前音楽監督のジェイムズ・レヴァインが長年の演出を取り下げ、21世紀のMETにふさわしい新演出の制作に踏み切った。

本来ならカナダ人のヤニック・ネゼ=セガンが振るところが、レヴァインの性的スキャンダルに伴う解任で音楽監督への就任が繰り上がり、「リング」全曲を振る準備が整わなくなった。そこで、パリ・オペラ座音楽監督として2010~13年の「リング」全曲上演で絶賛を浴びたジョルダンに白羽の矢が立った。2020年にウィーン国立歌劇場音楽監督に就く直前のタイミングをとらえたもので、11年ぶりのMET登場となった。

筆者は2019年4月27日、第3日「神々の黄昏(たそがれ)」のシーズン初日を観たが、ニューヨークの観客はすでに序夜「ラインの黄金」、第1日「ワルキューレ」、第2日「ジークフリート」でジョルダンの卓越した指揮ぶりを体験しているので全幅の信頼を寄せ、最初の音を振り下ろす前から、「ブラヴォー」の歓声の嵐に包まれた。

メトロポリタン歌劇場管弦楽団はオペラハウスのオーケストラとして、世界最高の水準を備えている。滅多にピットに立ちたがらなかった孤高の巨匠、カルロス・クライバー(1930~2004年)すら「素晴らしいアンサンブルだ」と、絶賛を惜しまなかった。ジョルダンも「お互いを理解できるようになるまで、それほど長い時間は必要ありませんでした」といい、冒頭から拍を刻む右手(指揮棒は持っている)の動きを最小限に抑え、左手を大きく使って音楽のニュアンスを克明に伝えていく。

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