19世紀の英国からフランスへと広がったダンディズムとは、表面的なおしゃれとは異なる、洗練された身だしなみや教養、生活様式へのこだわりを表します。服飾評論家、出石尚三氏が、著名人の奥深いダンディズムについて考察します。
2019年3月、平成を駆け抜けたイチローが現役を引退しました。そして5月1日、今度は米大リーグのシアトル・マリナーズのインストラクターとして、本拠地Tモバイル・パークに姿を現しました。現役時代と変わらぬ練習着スタイルで打撃投手を務めたイチローに、選手もファンも惜しみない拍手を送りました。
■剣術の「上段の構え」にも似たバッティングフォーム
記録ずくめの28年間の現役生活、そして45歳での引退は「お見事」としか言いようがありません。イチローはそのバッティングフォームでも世界中の人たちに強烈な印象を残しました。
バッターボックスでの姿は忘れがたいものがあります。バットをすっと前に出す、イチローならではの「ルーティン」。日本の剣術でいうところの「上段の構え」にも似ています。
イチローは武士が刀を大切にしたように、バットを大切にしました。専用のケースに入れて持ち運び、マリナーズのベンチには、イチローがバットを立てかけておくための専用スタンドが用意されていたと伝えられています。まさに侍の刀掛けを思わせるではありませんか。
イチローは長い年月をかけて、フォームから道具に至るまで、自分のバッティングスタイルを確立したのです。選手に復帰した今シーズン、フォームの改造に挑戦しましたが、この年齢にしてそれができるのも、すでに揺るぎない自分のスタイルを確立しきっていたからこそではないでしょうか。
■ダークスーツ+細いネクタイに服装哲学
イチローのスタイルといえば、この10年ほど公式の場でよく見かけたのが、ダークスーツに細いネクタイといういでたちです。最近、この手の細いネクタイはあまり目にしません。頻繁に身につけているところを見ると、イチローがこの細いネクタイをいかに好み、長く大事に愛用しているかがうかがえます。
私はここにイチローの服装哲学を感じるのです。さまざまなファッションを試した果てにたどり着いた、自分に似合う「これ」というスタイルを大事にするという考えです。

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