戦闘を学ぶ子供たち ウクライナ、紛争地域の現実

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/5/15
G・T・ベレゴボイ軍学校で上官にあいさつする若き士官候補生。2014年にドンバス地域で紛争が始まって以降、300人以上がドネツク人民共和国から学位を授与されている。ドネツク人民共和国はウクライナに属するが、ロシアの支援を受けウクライナからの独立を宣言している(PHOTOGRAPH BY DIEGO IBARRA SÁNCHEZ)

首都キエフの郊外で6~17歳を対象に開催された「LIDER」というサマーキャンプでは、起床後すぐに国旗掲揚式が行われていた。子供たちはそこで国歌を聞き、その後、さまざまな軍事演習に参加する。子供たちが学ぶのは、塹壕(ざんごう)をほふく前進する方法、ガスマスクの付け方、自動小銃を組み立て、分解する方法、射撃などだ。イバラ・サンチェス氏によれば、子供たちは絶えず反ロシア的、サバイバリスト(生存主義者)的な美辞麗句を聞かされていたという。

イバラ・サンチェス氏はLIDERに参加していた子供たちに3つの質問をし、その答えを一冊のノートに書き込んでもらった。3つの質問とは、なぜキャンプに参加したのか、なぜ国を守りたいのか、将来の夢は何かだ。子供たちの答えはキャンプでの洗脳、戦争の現実に対する理解、自分たちの若さ、普通の子供でいたいという欲求など、いくつもの相反する影響を反映していた。

RANGERキャンプの軍事演習に参加するウクライナの子供たち。ルスラン・ボルモボイ氏が企画したこのキャンプは、子供たちに愛国心を教えるための軍事演習プログラムだ。12~17歳を対象に、ポーランドとの国境に近いボロディーミル・ボリンスキーで開催された(PHOTOGRAPH BY DIEGO IBARRA SÁNCHEZ)

エレーナ・シェベルちゃん(10歳)はノートに、プールと射撃場が同じくらい好きだと書いていた。ミハイロ・デイ二コフ君(8歳)は「母国を守ることは大切。なぜなら敵に占領され、捕虜になり、殺されるかもしれないからです」と信じていた。ただし、デイ二コフ君は平和になったら、将来は魚の研究者になりたいと書いている。「兵士になるのは怖いからいやです。世界から戦争がなくなってほしいです」

紛争の前線を挟んだ反対側では、士官学校が生徒たちに、ロシア政府が支援する分離独立派の部隊に入るよう勧誘している。ドネツク人民共和国(ウクライナ東部の分離独立派が建国し、国家を自称)のG・T・ベレゴボイ軍学校は、2014年の開戦以降、300人以上を卒業させたと伝えられている。イバラ・サンチェス氏によれば、ここでも敵を悪者扱いすることが徹底されていたという。「敵がいることは、共通の目的を持つ国家という概念を強力に後押しします」

LIDERキャンプの軍事演習で、有刺鉄線の下をほふく前進するマシュー君(11歳)。「僕がLIDERキャンプに参加したのは、自分の国を守る方法を学ぶ必要があるからです」(PHOTOGRAPH BY DIEGO IBARRA SÁNCHEZ)

国連の試算によれば、ウクライナ東部では2014年以降、1万人以上の命が失われている。イバラ・サンチェス氏に言わせれば、ウクライナ東部の紛争、そして、子供たちを紛争に誘い込むやり方は、本物の愛国心とは無関係だ。「母国への愛は、心が安らかなときに生まれるものです」とイバラ・サンチェス氏は話す。「自分の考えを誰かに押しつけようとしているとき、自分の旗や歴史、政治、価値観が他者より優れていると考えたとき、愛国心は危険なものになります」

次ページでも、サンチェス氏の写真で、戦闘を学ぶ子供たちを見ていこう。

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