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かくも自由な三色弁当 鶏と卵に続く3色目の具は何?

土屋敦の男の料理道(7)

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NIKKEI STYLE

日々のお弁当づくりに定評のある料理研究家の方のご自宅に伺い、三色弁当をごちそうになったことがある。さすが、多くの読者の支持を集める方だけあり、しっとりと滋味深いとりそぼろ、色鮮やかでふんわりとしたいり卵は絶品だった。

三色弁当用のとりそぼろだが、鶏ひき肉にしょうゆ、日本酒、砂糖、ショウガ(みじん切りやせん切り、ショウガ汁だけを使うこともある)を加えて火にかけ、かき混ぜながら水分を飛ばしながら仕上げるのが普通だろう。

おいしく仕上げるコツは、ポロポロになるまでいためず、汁が少し残る程度で火を止めることだ。ご飯に少し汁が染みると同時に、肉が硬くなりすぎず、しっとり、ふっくらに仕上がる。

一方、いり卵は、溶き卵にほんの少しの砂糖だけ入れて、油も入れずにいりつけ、こちらもパサパサにならないよう、固まってきたら火を止めて余熱で仕上げる。おいしく作るポイントは、卵に塩味をつけないことではないか、と思っている。いり卵自体は甘くプレーンな味にとどめておき、とりそぼろの濃いめの味付けで、全体を調和させるのだ。これは、口内調味を楽しむ、日本人ならではの味わい方だろう。

さて、この料理研究家の方が作ってくれた三色弁当はとてもおいしかったのだが、同時に、おや? っと思ったこともある。それは「3色目」に当たる緑色の具材が、下味のついたコマツナを刻んだものだったことだ。

私は、三色弁当の緑色はゆがいたキヌサヤをスライスしたものに決まっている、と思っていたのだ。百歩譲ってもサヤインゲン。理由は単純で、幼稚園のときから、三色弁当の緑色の具材は8割方キヌサヤで、たまにサヤインゲン。それ以外であったことがないからだ。

そこで早速、インターネット上に上がっている写真を検索してみたのだが、むしろ、コマツナやホウレンソウなど、青菜をゆでて刻んだもののほうが多数派で、そちらが定番といえそうだ。そのほか、グリーンピースを使ったものも多い。

また、茶色(肉そぼろ=鶏そぼろがほとんどでまれに牛豚ひき肉のそぼろも)、黄色(卵=いり玉子か錦糸玉子)、緑色(緑色の野菜)の組み合わせ以外に、茶色、黄色、赤色の組み合わせも多かった。茶色=肉そぼろ、黄色=卵は同じで、赤色は、サケフレークが定番。桜でんぶやニンジンを使ったものもある。

三色弁当はかくも自由だったのか! と感心する一方で、本来の三色弁当ははどういう組み合わせだったのか、そのルーツを知りたくなった。と同時に、それはこれだけバリエーションがあるのに、なぜ現在、肉そぼろと卵に関しては、ほとんど誰も異論を挟まないのか、という疑問も持った。色だけで言えば、別に焼き肉と刻みたくあんでもいいはずだが、この2色に関してはそういったバリエーションはほとんど見られず、定番としてゆるぎない地位を確立している。

それを知るためには、やはり、昔にさかのぼる必要がある。早速、国会図書館のデジタルアーカイブで「三色弁当」を検索したが、昭和初期や大正、明治のレシピは出てこない。もしかしたら、三色弁当は、家庭で作ったお弁当を学校や職場に持っていくことが一般化した、戦後に生まれたものなのだろうか?

確かに家庭で毎日のようにさまざまな具が入ったお弁当を作ることが普及したのは戦後かもしれない。しかし、戦前から弁当はあったはずだ。そこでふと思いついたのが駅弁の存在だ。駅弁の発祥は、1877年(明治10年)、82年(明治15年)、85年(明治18年)などと諸説あるが、戦前に三色弁当のような駅弁があった可能性はあるだろう。

そこで「駅弁」「三色弁当」というキーワードで検索してみると、「駅弁資料館」というサイトで栃木県小山駅の名物駅弁「特製三色弁当」について言及されていることが分かった。紹介されている掛紙(駅弁の包装紙)は1980年代のものらしいが、名物駅弁であるなら、古くからあったものかもしれない。この弁当は製造元が廃業して今は食べることはできないが、別のブログによると、この弁当の三色は、茶色=鶏そぼろと刻んだ鶏肉、黄色=錦糸卵、赤=桜でんぶの組み合わせだったそうだ。

ここで気になったのが、この「特製三色弁当」の副名称が「鳥めし」であったということだ。もしかすると、三色弁当のルーツは鶏肉を使った弁当にあるかもしれないと考え、「鶏飯系」の駅弁を調べてみると、九州北部の「かしわめし」と呼ばれる名物駅弁に行き当たった。これはご飯の上に、刻んだ鶏肉を味付けしたものと、錦糸卵、刻みノリがのったもの。色合いは茶色、黄色、黒色であるものの、見た目はまさに三色弁当だ。ご飯は鶏のスープで炊いたもので、大正時代からあるそうだ。

もし三色弁当のルーツが「かしわめし」などの鶏飯だとすると、今ある三色弁当のほとんどに、鶏肉と卵が使われていることにも納得がいく。ノリは主役を張れる食材とは言い難いので、ほかの具材に代わっていったのかもしれない。

ともあれ、「とりめし」「かしわめし」を調べていけば、三色弁当のルーツに行き当たるかもしれない。そこでこれらをキーワードに再度、国会図書館デジタルアーカイブを当たると、いくつかの戦前のレシピがヒットした。

だが、戦前の「とりめし」のレシピの多くは、鶏肉とご飯を一緒に炊き込むか、丸鶏を煮て、そのスープでご飯を炊き、煮た鶏の肉をほぐして細かくして一緒に食べる、というものだった。

これでは、とりめしが三色弁当のルーツとは言えない、と思っていたところ、あるレシピを発見した。それは、1930年(昭和5年)に発行された『寿司と変り御飯の作り方』(主婦之友社)というレシピ本に収められた、「変った鶏飯」というレシピ。作り方は以下のようになっている(旧字など、分かりにくいところは送り仮名を入れ、新字体やひらがなにしてある)。

「鶏の羽毛をむしって毛焼きをし、頭、手羽、足を落として、臓物を抜き取り、ローストするように作りましたら、塩を落とした熱湯に入れて十分火が通るまで気長く茹で、肉が軟かくなったところで細かく割き、大皿に全部盛り上げておきます」

ここまではいわゆる三色弁当とはかなり違うが、このあとでぐっと近づいていく。

「別に、玉子の薄焼きを細くせんに切り、さやえんどう、いんげんなどを色よく茹でて、同じくせんに刻んでおきます」

そして、裂いた鶏肉とともにこれらを炊きたてのご飯の上に載せるという。これは「三色弁当」とは言えなくても、まさに「三色丼」そのものではないだろうか。

ということで、これを三色弁当のルーツとすれば、緑色の具の元祖は、やはり、サヤエンドウとインゲンということになりそうだ。つまり、私が幼い頃から食べてきた三色弁当こそ、正当なものなのだーーそう言いたいところだが、実は、このレシピには続きがある。

「その他に福神漬、揉み海苔、紅生姜にたくあん漬け(細くせんに刻む)などを大皿に体裁よく盛り分け、どれでも、好きな品が食べられるようにしておきます」

そしてこれらを好きなようにご飯の上に盛り、さらに鶏を煮たときのスープをアツアツに温めて、上からかけて食べるという。

残念ながらこのレシピ自体が、三色弁当から少し遠ざかってしまった。三色弁当のルーツとして見るのには、ちょっと無理がありそうだ。

しかし、細かく裂いたり刻んだりした鶏肉と卵の組み合わせは戦前からあり、そこに自由にほかの具材を組み合わせて楽しむことは、今も昔も変わらないことは見てとれる。ちなみにこの「変った鶏飯」は「お子様方にたいそう喜ばれます」とある。三色弁当も、子どもに大人気のお弁当だ。いずれにしても「そぼろと卵+何か」をご飯に載せたものは、時代を超えて子どもたちの支持を集めるものなのだろう。

三色弁当のルーツを追ってみたが、結局、行き着いたのは、どうやら戦前から、肉そぼろ+卵に、さらに自由に具を加えて楽しんでいたということ。キヌサヤでもグリーンピースでも青菜でも、あるいはサケフレークでも桜でんぶでも、好きなように楽しむのが一番、ということだろう。

ちなみに私が最近作った三色弁当は、菜の花のコンブ締め、釜揚げ桜エビ、錦糸卵の組み合わせ。また、ホタルイカ、ワカメふりかけ、シラス(+小ネギ)というのも美味だった。鶏そぼろ、卵からさえ離れてしまったが、こんなふうに自由に三色を組み合わせて楽しむのも面白いだろう。

土屋 敦

ライター 1969年東京都生まれ。慶応大学経済学部卒業。出版社で週刊誌編集ののち寿退社。京都での主夫生活を経て、中米各国に滞在、ホンジュラスで災害支援NGOを立ち上げる。その後佐渡島で半農生活を送りつつ、情報サイト・オールアバウトの「男の料理」ガイドを務め、雑誌などで書評の執筆を開始。著書に『男のパスタ道』『男のチャーハン道』(いずれも日本経済新聞出版社)など

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