史上最大のティラノサウルス ゾウより重い約9トン
カナダで見つかった恐竜化石が、これまでで最も重いティラノサウルス・レックス(Tレックス)であることがわかった。体重は推定8.85トンで、現在のゾウより重かった。
2019年3月21日付けで学術誌「Anatomical Record」に発表されたこの化石は頭と尻の完全な骨、肋骨と脚の骨、尾骨の一部を含む約65%の骨格から成る。ニックネームは「スコッティ」。推定28歳以上と、この恐竜としては高齢だ。
気楽な28年ではなかった
約6800万年前、スコッティが暮らすカナダは楽園のような亜熱帯の海岸だったが、スコッティの生涯はバカンスとは無縁だった。この恐竜の化石には、肋骨が折れて治癒した痕跡、2本の歯の間で異常に成長した骨、尾骨を骨折した痕跡が残されていた。歯の間にある骨は感染の証拠、尾骨はほかのティラノサウルスにかまれたものとみられる。
「これらの傷跡を見る限り、たとえ肉食恐竜の王者でも、気楽な暮らしではなかったようです」と、米デトロイト・マーシー大学の古生物学者ニザール・イブラヒム氏は語る。氏は今回の研究に関わっていない。
今回の発見が示唆しているのは、大型肉食恐竜が思いのほか長生きし、体も大きくなったらしいことだ。絶滅した恐竜の中でも、Tレックスは最も標本が多い種の一つであり、20以上の個体の化石が発見されている。
研究を率いたカナダ、アルバータ大学の博士研究員スコット・パーソンズ氏は「ほかの獣脚類でも、標本が増えれば、スコッティのように大きくて高齢な個体が見つかるでしょう」と話す。「さらに体の大きい標本が見つかっても、私は驚きません。ほかの獣脚類がTレックスと肩を並べていた可能性、Tレックスを超えていた可能性は十分あります」
立派な太ももをもっていた
スコッティは1991年、カナダ、サスカチュワン州で発掘され、古生物学者の間では存在を知られていた。Tレックスを発見した研究者たちが乾杯しようとしたところ、ちょうど発掘調査のシーズンで、現場にはスコッチウイスキーが1瓶しかなかった。これがスコッティという愛称の由来だ。
しかし、スコッティの全貌がわかるまでに20年以上を要した。巨大な骨が硬い岩に閉じ込められており、取り出すのに苦労したためだ。スコッティがようやく自由の身になったのち、パーソンズ氏のチームが年齢と大きさを導き出した。
骨の断面は、驚くほど頑丈な構造であることを示唆している。28歳前後で死んだと推測される別のTレックスの骨とよく似ている。体の大きさの決定的な手掛かりとなったのは大腿骨だ。
現生のさまざまな動物の研究から、大腿骨が太いほど、支える体重も大きい傾向にあることがわかっている。スコッティの大腿骨は直径20センチほどもあり、2本の脚で8.85トン以上を支えていたことを意味する。誤差は前後2トンずつといったところだろう。米フィールド自然史博物館に展示されている大型のTレックス、スーの全身骨格に同様の手法を用いた場合、スコッティより約400キロ軽い計算になる。
ただし、この手法は確実ではない。まず、骨格はただ体重を支えるだけでなく、運動の力にも耐えなければならない。アロサウルスなど、ほかの大型肉食恐竜と比べ、ティラノサウルスは動きが速く機敏だったという証拠もある。ティラノサウルスの脚の骨が走りのストレスに耐えられるよう過剰に進化していたなら、パーソンズ氏らがスコッティの体重を大きく見積もっている可能性もある。
また、体重は大きさの一つの指標にすぎず、すべての肉食恐竜が同じ体形だったわけではない。ティラノサウルス類はずんぐりしているが、もっと細長い肉食恐竜もいた。なかには同じTレックスでも体形はさまざまだったと考える研究者もおり、実際、「細身」の標本もいくつかある。
骨太=巨大とは限らない?
骨の太さだけではわからないという好例が、スピノサウルスだ。スピノサウルスは半水生の恐竜で、約1億年前、現在の北アフリカに生息していた。口から尾の先端までが約15メートルで、体長はTレックスを超えている。しかし、大腿骨の太さから体重を推測すると、わずか1.6トン程度という計算になる。
実際はほぼ間違いなく、スピノサウルスはもっと重かったはずだ。ほとんどの時間を水中で過ごしていたと考えられているため、後ろ脚が小さかったのだろう。さらに、スピノサウルスの骨はほかの肉食恐竜よりはるかに密度が高い。ペンギンのような現生の半水生の鳥(恐竜の子孫)も同じ特徴を持ち、浮力を抑える助けになっている。
「スピノサウルスは型破りな存在です」とイブラヒム氏は話す。氏はナショナル ジオグラフィックの助成金を受け、スピノサウルスの化石を発見したことがある。「独自の生態と環境に特化した獣脚類で、恐竜というより川のモンスターです」
パーソンズ氏は引き続き陸に目を向け、スコッティの化石を詳しく調べる予定だ。目の周囲のドラマチックな張り出しと頭蓋骨の左右に生えた「角」から始めることにしている。「体の大きさが話題になっていますが、私のお気に入りはもっと小さなところ、奇妙な細部です」
(文 MICHAEL GRESHKO、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2019年3月28日付]
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