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福島・大七酒造 天ぷらにも合う力強さは時間が醸す ぶらり日本酒蔵めぐり(10)

2019/4/13

超扁平精米のイメージ。側面から見た図は、球状精米では精米歩合を上げても周囲の雑味成分を除ききれない可能性を示している(大七酒造提供)

「球状に削っていく以上、長辺の部分、出っ張った部分から削ることになります。コメの長さは短くなりますが、厚みは変わりません。この部分に雑味の原因成分が残るのです」。大七酒造は論文発表から2年後、扁平精米で造った酒を商品化してみせた。心白だけを残す精米。そんなことができるのだろうか。(図解参照)

扁平精米をする際、精米機に特別な仕掛けはないという。「砥石へのコメの当たり方を制御します。砥石を高速で回してコメをランダムな角度で当てると出っ張りから順に削れます。逆に砥石を低速回転させて、コメが踊らないよう密に詰め込んで砥石に当てれば玄米の形状に近い形に削れます」。この削り方は職人技で、当時の精米部長は「現代の名工」に選ばれたそうだ。

扁平精米は進化を続け、超扁平精米という心白だけをきれいに残す技にたどり着いた。砥石を低速回転させるから、精米には時間がかかる。それをいとわなかったからこそ確立した技術といえる。「精米歩合50%の超扁平精米の方が35%の球状精米より雑味成分が除去できている、という精米機メーカーのデータもあります」と胸を張る。

南部鉄器の伝統に根ざした鋳鉄製の和釜。釜に水を入れて熱し、上に甑を載せて蒸す

「精米歩合とかコメの品種とかに焦点を当てると違いを示しやすいですが、味を決めるのは、材料より造り方によるところが大きいのです」と太田さんは強調する。約15人の醸造スタッフが5000石(一升瓶50万本)を生産する。それぞれの工程で、こだわりは徹底している。コメ粒は不ぞろいがないよう、精米前により分ける。蒸す工程では、いまは珍しい和釜をあえて使う。

「和釜ははじめは湿った蒸気でコメに水分を供給し、高温になると乾いた蒸気でコメの表面を乾燥させます。コメの内部と表面で含水状態の異なる蒸し米ができる。この蒸し方は和釜でないとできません」。和釜は直径1.5メートル、重さ1.4トン。厚さ12ミリメートルの鋳鉄でできている。鋳物技術の伝承が危うい中、岩手県南部地方に作り手を探し当て、2つ特注した。

原料米は山田錦と五百万石の2種類しか使わない。「違う品種を一緒に甑(こしき)に入れて蒸せば、それぞれが理想の蒸し上がりにはなりませんから」。品種が多くなると蒸し上がりの質の均一化が難しくなり、麹造りに影響を与える。各工程で払う細心の注意が次の工程の礎になっているのがよくわかる。

太田さんの次の挑戦は純米酒の魅力を伝えること。純米大吟醸、純米吟醸、純米と並べると、値段が高い順であり、おいしい順であると思われがちだ。しかし、太田さんは言う。「大吟醸と純米とでは、求めるおいしさが異なります。ぜいたくに時間とコストをかけた高級純米酒があってもいいのではないでしょうか」

使っていなかった木桶にかんなをかけ、たがをはめ直して復活させた

この思いを具現した商品がすでにできあがっている。木桶(おけ)仕込みの「楽天命」だ。「生命力があり、正統派の酒です。いま販売しているのは2009年産のコメで仕込みました。10年たってもまだ熟成していて、成長力がすごい」。凝縮した丸みに、ほんのり木の香りをまとい、柔らかさの中にも強い個性を感じさせる。

木桶仕込みを復活させたのはフランス・ブルゴーニュ地方で「ロマネ・コンティ」の醸造所を訪れたときに触発されたからだという。「150年使った木桶を数年前、新しい木桶に取り替えた」と聞いて、ロマネ・コンティは最新鋭のステンレスタンクではなく木桶にこだわるのか、と驚いたという。「帰国してすぐ、木桶の復活を決めました。想像を超えてうまくいきました」

世界標準の醸造酒を目指して、大七酒造は立ち止まらない。

JR東北本線二本松駅からタクシーで5分。毎日のように蔵見学の客が訪れるようだが1日当たりの組数は限定しており、人数、内容などは事前に相談した方がいい。近くには「智恵子の生家」などの観光スポットも豊富にある。

(アリシス 長田正)

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