「外出した」が「辞職した」に 無冠詞officeのワナ
デイビッド・セイン「間違えやすい英語」(64)office
言葉の使い方を間違えて相手に誤解されてしまった。そんな体験はどなたにもあると思います。日本人向けの英語教育で豊富な経験を持つデイビッド・セインさんが、日本人が間違えやすい英語の使い方を解説します。今回は、あまりに身近すぎて見落としがちな単語officeの用法について見ていきましょう。
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勉強するときはいつも完全を目指す。しかし会話をするときは通じることを目指す。これが英会話には必要なポイントです。相手を前にして英語を話すときは、完璧な英語でなくても構いません。間違いがあってもいいのです。フレンドリーに笑顔で話せば、不完全さは補われます。間違いを恐れず英語を話しましょう。そして勉強するときは完全を目指しましょう。
ナンシーとヒロシは今日、自社の工場を訪れています。会社の上司もオフィスからこちらに向かうはずなのですが、まだ来ていません。そのことを心配するナンシーに対して、ヒロシは「彼はオフィスを出たよ」と伝えました。ところが、どういうわけかナンシーはひどく動揺しています。ヒロシにはその原因がさっぱりわかりませんが、なにか言い方を間違えてしまったようですよ。
それは、こんな会話でした。
Hiroshi: Ah, he left office.
Nancy: He what? Did he say why? This is terrible!
Hiroshi: Why are you so upset?!
図らずもヒロシは次のように言ったことになります。
ヒロシ:えっと、彼は辞職したよ。
ナンシー:なんですって? 理由は言ってた? こんなのひどいわ!
ヒロシ:どうしてそんなに気が動転しているの!?
動詞leaveには「何かを離れる」という意味がありますので、ヒロシは「オフィスを出る」のつもりでleave officeという表現を用いたのでした。ところが、問題はofficeという言葉にあります。この単語は会社などの「事務所、オフィス」を指す以外にも、「職」という意味があるのです。そのため、leave officeは「職を離れる」、つまり「辞職する」ことを表しており、ヒロシは「上司のジョンソンさんが退任した」と大変なことをナンシーに伝えてしまったわけです。
ほかにも、go out of officeと言った場合も、オフィスの外に出ることではなく「辞職(退任)する」という意味になります。また、こうした無冠詞のofficeは、「職」の中でも要職を指し、特に議員としての「公職」を表すことがありますので、政治家が政権を離れて「退陣する」といった文脈でも使われる表現です。
では、どう言えばよかったのでしょうか?