ネズミのデータは、先史時代のリアンブアの様子を知るのにとりわけ役立つ。というのも、ここではいつの時代の層からも必ずネズミの骨が出土しているからだ。フローレス原人やステゴドン、その他の動物は現れては消えていったが、ネズミはおよそ19万年にわたって洞窟にすみ続けた。

巨大ネズミを肩に担ぐフローレス原人の復元図(ILLUSTRATION BY PETER SCHOUTEN)

「フローレス原人も現生人類も、ほんの短い間訪れては去っていくだけの客人にすぎません」と、トチェリ氏は指摘する。

この長い歴史と多様性に着目したビーチ氏とトチェリ氏はナショナル ジオグラフィックの支援も受け、1万2000個以上のネズミの骨を測り、大きさごとにグループ分けした。そして、年代順に区分された地層に、それぞれのグループのネズミの骨がどれだけ含まれていたかを比較した。変化に気付いたのはこの時だった。約6万年前までは、より開放的な生息地を好む中型のネズミが圧倒的に多かったが、その後、森林に適応した小型のネズミにとってかわられたのだ。

これは洞窟を取り巻く環境が変化したためではないかと、チームは仮説を立てた。インドネシア国立考古学研究センターの研究員で論文共著者のジャトミコ氏は、「以前は開放的だった環境が、閉鎖的な環境に変わったのだと思います」と話す。

フローレス原人は引っ越しただけ?

生態系の変化は、フローレス原人やその他の大型動物にも影響を与えた。サプトモ氏によると、「フローレス原人だけでなく、大型の種も洞窟を離れました。5万年前になると、フローレス原人、ステゴドン、ハゲワシ、コウノトリ、コモドドラゴンの痕跡は一切なくなってしまいました」という。

リアンブアで出土した中型と小型ネズミの大腿骨(COURTESY LIANG BUA TEAM)

これまで、フローレス島の大型動物は絶滅したと考えられていたが、「今回の研究から示唆されることは、フローレス原人や他の動物たちが単に開放的な環境を求めてリアンブアを離れたのではないかということです」と、ビーチ氏は言う。

つまり、フローレス原人も大型動物も、この時期に絶滅したのではなく、島のどこか別のもっと住みやすい場所へ移っただけかもしれないのだ。

「それ以降もフローレス島のどこかで生きていた可能性はあります」と、論文共著者でオーストラリア、ウーロンゴン大学のトーマス・スティクナ氏は話す。

米ジョージ・ワシントン大学の古人類学者バーナード・ウッド氏は、研究チームの分析が「エレガントで慎重」と評価する。そして、化石記録を分析する際には、できる限り多くの解釈を考慮に入れるべきであることを示す好例だと付け加えた。「ある場所で、ある時期を境に、ある種の化石記録が見られなくなったからと言って、より広範囲で絶滅したと結論付けるのは愚かです。この研究は、その愚かさを示すよい例です」

リアンブアで出土した骨から、フローレス原人は洞窟の中でネズミと一緒に暮らしていたことがわかった。ネズミは、あごの骨と歯の大きさから、5つのグループに分けられた(ILLUSTRATION BY ELIZABETH GRACE VEATCH)

今回の結果によって、例えばフローレス原人はこれまで考えられたよりも長く生き残り、現生人類の祖先と接触していた可能性が出てきた。現生人類のホモ・サピエンスがこの島に到達したのは約4万6000年前と考えられている。もしその時までフローレス原人が生きていたとしたら、島のどこかで現生人類に遭遇していたかもしれない。

それを確かめるには、さらなる発見が必要だ。願わくば、フローレス島の他の洞窟や別の場所でフローレス原人の骨が発見されるといい。さらに運が良ければ、多くのネズミの骨が発掘され、人類の失われた親せきであるフローレス原人の最期に、いったい何が起こったのかがわかるかもしれない。

(文 Paige Madison、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2019年3月14日付]