「女性幹部増やせ」独企業が急ぐ登用・育成の透明化

「無意識の偏見」への気付きがカギに

問題は、監査役への登用が女性取締役の増加につながっていない点だ。監査役と取締役を合わせた割合では女性比率は2割を超えるものの、取締役だけだと上場企業大手200社の女性取締役比率は約9%にとどまる。

出所:ドイツ経済研究所「Women Executive Barometer Companies」2019年3月
出所:内閣府ホームページより (注)日本の役員は、取締役、監査役、指名委員会等設置会社の代表執行役および執行役。日本の2018年7月時点の女性役員比率は4.1%(東洋経済新報社「役員四季報」)

フレキシブル・クオータでは「女性取締役の割合目標を0%とするところが、対象企業の約半分を占める」(家族・高齢者・女性・青年省のクリスティーナ・ガイストさん)。ドイツには社外取締役がいないため、内部昇進で女性を上げるのは当面無理だというのだ。

日本と同様ドイツでも、女性取締役がゼロでは許されないという機運は高まっている。「目標0%企業に対して、女性役員を増やせない理由を説明することを求めていく。これを課すため、年内にも罰金付き制裁措置を定める見込み」とガイストさんは言う。

こうした動きのなか、大手企業は女性幹部育成に一層力を入れ始めた。取り組みは大きく3つ挙げられる。

一つは、日本でも関心が高まっている「アンコンシャス・バイアス」(無意識の偏見)の気付きを促す取り組みだ。ボッシュでは17年から全世界の従業員全員に研修を始めた。特に人事権のある役職者に対しては「無意識のうちに女性を選抜しない」といったことがないよう、評価のバイアスを取り除く研修を18年から実施している。数人が一組になり、ある人物の模擬評価をして、評価に食い違いがあった場合はその理由について論じるというもの。参加者は研修を受けたことで「なぜこの人を選んだのか、背景を探り理由付けをするようになった」という。

フォルクスワーゲンのエルケ・ハイトミュラーさん。AIを用いたメンター制度マッチングシステムを開発中だという

さらに、後継者育成プログラムに管理職候補を選抜する際、訓練を受けた試験官が複数人でビデオインタビューを見て判断するなど、客観性を保つ試みも始めている。大学研究者と組んでAI(人工知能)も活用するなど、バイアスに左右されない選抜法の研究も進めている。

フォルクスワーゲンもまた、女性幹部を育てる上でアンコンシャス・バイアスが壁になることがあると考えている。同社のダイバーシティ推進責任者のエルケ・ハイトミュラーさんは心理学者でもあり大学で教えた経験もある。最新の学術研究を日常でいかに実践できるか、社員研修の中で教えている。

例えば「人間は自分に似ている人を好む傾向がある」というバイアスが、起きて間もない時間帯はさほど強くないとされる。そこで、女性が男性管理職とミーティングをする時間帯は朝のほうがチャンスにつながるとすすめているという。今年は管理職に対する特別研修を始める予定だ。

管理職候補3人のうち必ず1人は女性に

2つめは、積極的なアファーマティブ・アクション(格差是正策)だ。欧州最大の鉄鋼会社ティッセン・クルップで成果を上げたのが管理職候補割当制。取締役レベルから3つ下の階層の管理職まで、「最終候補者3人のうち必ず1人を女性にしなければならない」と定めた。適した女性がいなければ、取締役会の承認を得る必要がある。この仕組みを導入した15年当時7.8%だった女性管理職比率が、18年時点で12%にまで上がった。

ドイツ銀行のゲノウ・ゼンドフスキーさん。女性幹部育成には、包括的な取り組みが必要だという

さらに昨年、新たに実施したのが「ドライバーシート」というプログラム。責任ある新しい仕事に就きたいと思う女性は、1年かけて取り組みたいプロジェクトテーマを自ら決めて応募。例えば「ルーマニアの自動車産業に対する国境を超えた相乗効果の最適化」といったもの。一人ひとりに執行役員らがスポンサーとなって実行を手助けする。昨年は営業や購買など各部署の女性12人が手を挙げ、成果を認められて4人が昇進を果たしたという。

ドイツ銀行が2009年から実施しているのが「アトラスプログラム」。取締役・経営陣の候補となる女性15~20人ほどを対象に、事業戦略から「人としてどう成長するか」まで学ぶ。女性幹部を引き上げる効果だけでなく「取締役ならびに上級管理職に対して、才能あるトップクラスの女性たちを可視化する効果もある」と人事部シニア・エクスパートのゲノウ・ゼンドフスキーさんは言う。

ティッセン・クルップのイルゼ・ヘネさんは、初の非ドイツ系女性役員。「初めはコミュニケーションを取るのに苦労した」

3つめは、キャリア断絶を防ぐための試み。仕事と家庭をいかに両立するか、これは日本だけではなく世界共通でキャリア女性が抱える悩みだ。

ティッセン・クルップのグループ事業会社の一つであるマテリアル・サービスCOOのイルゼ・ヘネさん(46)は、非ドイツ系で初の女性役員として約2万人の従業員を率いる。これまでの道のりで最も大きな決断は、母国ベルギーからドイツへ、6歳の子どもを置いて単身赴任をすることだった。

「ママ知ってる? 家にいて働いていないママもいるんだよ」と折に触れて寂しい思いを口にしてきた息子を、ベルギーの小さな村に住む子供の父親に託し、単身でドイツ本社に転勤することは苦渋の決断だった。8年たった今、息子は「僕もママのような仕事がしたい」と言うようになったと笑顔で話す。