働くのに大事なのは「心理的安全性」
座談会では、村木氏とトランスジェンダーの当事者でLGBTの若者支援活動にも取り組む金沢恭平氏が話し合った。企業で働いた経験もある両氏が強調したのは、ありのままの自分を安心してチームに受け入れてもらえるという「心理的安全性」の大切さだ。
金沢氏は学生時代、自身のセクシュアリティーをオープンにして就職活動に臨み、不動産会社の営業職になった後、退職した。「採用面接で人事担当の社員がとても親切にしてくれて、『制度はないけれど、何でも相談してほしい』という言葉をもらった。それが決め手で入社を決めた。しかし、部署の同僚などに偏見を含んだ言葉をかけられることなどがあり、長く働き続けるのは難しかった」(金沢氏)
18年に虹色ダイバーシティなどが実施した働く性的少数者への調査では、実施している施策が多い職場の方が「心理的安全性が高い」という結果が出た。半面、「施策なし」の企業と「施策が1つだけ」の企業では、むしろ後者で心理的安全性が低くなるという意外な傾向もみられたという。
金沢氏は、これについて「1つでも施策が実施されていると、受け入れてくれる場所なのかと期待してしまう。そこで現場の理解が追い付いていない現実に直面した場合、かえって心理的安全性が低下してしまうという感覚なのかもしれない。私自身、人事の担当者が親切だっただけでは、困ったことがあっても相談できなかった」と話した。
村木氏はレズビアンだが、それは伏せて複数の職場で働いた経験がある。一度だけ同僚の女性にカミングアウトしたところ「楽になった」と振り返る。「一緒にランチに行けるようになったり、セクシュアリティーのことに限らず、何か嫌なことがあったときに気軽に話せるようになったり。社内で支えてくれる『アライ(支援者)』の存在が分かると、私はとてもうれしかった」(村木氏)
今回の調査では「性別マイノリティや支援者による職場内グループの運営」に取り組んでいる企業は26.1%あった。村木氏は「相談窓口などはもちろんあった方がよいが、形だけでは当事者が活用しにくい現状がある。職場のグループの運営も含め、支えてくれる人がいることを当事者が認識できることが大事だ」と話していた。
(ライター 加藤藍子)