「居酒屋以上旅未満」 星野リゾートが若者向け新業態

日経トレンディネット

飲食類は持ち込み自由

屋内のTAMARIBAでは何ができるのだろうか。目についたのは、さまざまなカードゲーム。友達の家にいるような感覚で楽しんでほしいという狙いで、TAMARIBAで遊んでもいいし、部屋に持ち帰ってもいいという。実際、記者が泊まった日にも、深夜12時過ぎまでトランプで盛り上がっている女子3人組がいた。

アルコール類を含む飲み物やちょっとしたおつまみは、カフェで購入できる。面白いのは、持ち込みが自由というところ。偶然にもホテルの入り口近くにはコンビニエンスストアがあり、食材は自由に手に入る。両手にアルコール類や食べ物を山ほど抱えてやってきた若者グループも実際に見かけるなど、通常のホテルとはだいぶ印象が異なる。

量り売りのワインは自分で注ぐスタイル
軽食はパンなど調理済みのものに限られる

この点は、BEB5側の割り切りでもある。BEB5にはレストランが併設されておらず、夕食は星野エリアにあるレストランなどの利用が想定されている。カフェでも、提供するのは調理が不要なものだけ。そうすることで、少ないスタッフで運営できるようにしているという。宿泊料金を抑えつつ、利用客に自由に過ごしてもらう。その答えが「持ち込み自由」だったわけだ。その半面、手厚い「おもてなし」はない。従来の星野リゾートのイメージを抱いて訪れようとしている人は注意が必要だ。

星野エリアと近接しているもう一つのメリットが、温泉施設のトンボの湯が利用できる点。源泉かけ流しで露天風呂がありながらも、星野リゾートらしいスタイリッシュなデザインが特徴だ。通常大人1300円のところ、500円で利用できる。部屋にも洗い場付きの浴槽があるが、この程度の追加料金なら、温泉に入りたいと思う人も多いのではないだろうか。

「トンボの湯」は源泉かけ流しの温泉だ
夕食はハルニレテラスで取るのがいいだろう

ただ少し残念なのは、部屋のタオルを持っていくのが前提になっていること。BEB5からトンボの湯までは歩いて10分ほど。道中には雑貨店や飲食店が立ち並ぶハルニレテラスもあり、行き帰りにウインドーショッピングや、食事を楽しむ手もある。しかしその際、ぬれたタオルを抱えてというのは現実的ではないだろう。一応、トンボの湯で300円支払い、タオルを借りればいいとのことだったが、同じ星野リゾートの施設なので、融通を利かせてもいいのでは、と感じた。

20~30代の若い世代を呼び込めるか?

さて、日が変わって翌朝。一押しの朝食という「羽根付きフレンチトースト」(セットで1200円)を味わった。基本的に調理済みのものを販売するカフェだが、このフレンチトーストだけは、仕上げをその場で行う。

面白いのは、付け合わせの量がS、M、Lの3段階で調節でき、かつ量を増やしても料金が変わらないこと。自由な過ごし方の一つの提案として「量の自由」も打ち出しているのだ。ちなみにこのメニューの提供は9時30分までだが、それ以降でも、デニッシュなど出来合いのメニューの購入は可能。「寝坊してもOK」とうたうゆえんだ。

フレンチトーストは熱々を食べられる
左がSで、右がL。どちらも値段は1200円(スープとドリンクが別途付く)

全体を通して、型にはまらない過ごし方を提案しているBEB5。目指しているのは「居酒屋以上、旅未満」だと総支配人の金子尚矢氏は話す。35歳以下の限定プランなら、いつでも1室1万6000円。最大3人で泊まれるので、1人当たり5300円程度となる。これについて、「長野県内や隣接する群馬県からなら、食事代を入れて1万円程度に収まる。実は、居酒屋で飲み食いして、マイカー代行を呼んでもそのくらいはかかる。居酒屋代わりの利用は狙えるはず」(金子氏)。20~30代は旅行に消極的で、このままだと将来的に旅行に出かける人が減るのではないかという危機感が、星野リゾートを突き動かしている。

もう一つのターゲットは、首都圏在住の若者たち。新幹線を使うと1万円を超えてしまうが、金子氏は「そのぶん、温泉や豊かな自然をアピールしたい」と話す。ダラダラ過ごせる雰囲気がBEB5の売りだが、さすがにそれだけで軽井沢まで足を運んでもらうのは難しい。そこで提案しているのが、スウェディッシュトーチによるスキレット体験であり、天然氷の卓上アイスホッケーだ。春以降、どのような提案が出てくるのか。型破りなホテルが受け入れられていく鍵は、そのあたりにありそうだ。

(写真・文:日経クロストレンド 佐藤嘉彦)

[日経トレンディネット 2019年3月14日付の記事を再構成]

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