写真映えの風景 人気上昇の背景
気が遠くなるような歳月をかけて起こる地殻変動や浸食が、風変わりな奇岩を生み出す。人々はその岩を動物や怪獣に見立て、物語を与え、祈りをささげてきた。今回はNPO法人、地質情報整備活用機構(東京・千代田)認定の「日本の奇岩百景+」をベースに選考。奇岩群や地層など広範囲に及ぶものは対象から外した。
(和歌山県田辺市) 500ポイント
熊野の奥に母の面影
世界遺産・熊野本宮大社の奥の山林の中にたたずむ岩。音無川に沿った小道からさらに100メートルほど入った場所にあり、偶然見つけることは難しい。人の手による造形にしか見えないが、「実は地層内で丸い塊が成長したノジュール(団塊)」(古宇田亮一さん)だ。
ノジュールは地質学用語で堆積岩の中に見られる、周囲とは成分の異なる塊のこと。「風化などで球状になる岩塊は珍しくないが、乳房のように2つ並んで岩壁に存在するのは極めて珍しい」(中田文雄さん)という。
右のノジュールは直系約46センチ、左は約40センチ。江戸時代の「紀伊続風土記」には「ちごら(乳古良)石」と記され、「子育ての神様として長く信仰されている」(小塩稲之さん)。岩の近くに小さなお地蔵さんがあり、地元の人は「花を絶やさないようにしている」という。「母親たちの深い祈りが感じられる」(森順子さん)
観光拠点の世界遺産熊野本宮館の主任、小渕良樹さんは「あまり知られていないが、熊野の隠れた魅力として注目してほしい」と話す。
(1)JR新宮駅から熊野本宮大社までバスで約1時間15分。大社から徒歩で約20分(2)https://www.kumano-kodo.jp/spot/spot-524/
(島根県隠岐の島町) 480ポイント
インスタ映え、圧巻の26メートル
2013年に認定された「隠岐ユネスコ世界ジオパーク」を代表する奇岩。動物に見える岩は各地にあるが、「岩壁をのぼるような長さ26メートルもの巨石のトカゲは圧巻」(須田郡司さん)の一言。ナトリウムとカリウムを多く含む日本で最も高濃度のアルカリ岩で、「岩の形もさることながら、その岩石の成分も珍しく一見の価値がある」(曽我知子さん)。
奇岩の類型として「落ちそうで落ちない岩」というのが世界中にある。「その多くは岩盤の上に球状か四角形の岩がちょこんと乗っているが、この岩は岩壁にへばり付いている形状で珍しい」(中田さん)。「本物のトカゲのようでインスタ映えする」(森さん)
周囲一帯は島根県の天然記念物や名勝に指定され、大自然の絶景を1日で巡ることができる。トカゲ岩を間近に見るには、展望所からさらに40分程度の険しい山登りが必要だ。
(1)隠岐の島の西郷港から岩を遠望できる展望所まで車で約60分(2)http://www.oki-geopark.jp/episode/geohistory/stage4/tokage-iwa/
(秋田県男鹿市) 460ポイント
夕日に浮かぶ迫力の横顔
日本海の海岸線には太平洋側にはない奇岩が多い。その代表で「特に海に落ちる夕日と奇岩が織りなす景色は男鹿半島ならでは」(水津陽子さん)。男鹿半島の海岸線には多くの奇岩が点在し、「ドライブしながらの写真コレクションツアーもおすすめ」(小林政能さん)。
正面から見るとまったくゴジラには見えないが、夕日に浮かぶシルエットはゴジラそのもの。夕焼けに染まる雲がたなびくと「口から火を噴くように見える」(須田さん)。近くには「ゴジラのしっぽ岩」や「ガメラ岩」もある。
男鹿半島はユネスコの無形文化遺産に登録された伝統行事ナマハゲや、名物ハタハタの魚醤(ぎょしょう)で作るしょっつる鍋などで観光客の人気を集める。男鹿市観光協会事務局長の佐藤豊さんは「夕日の絶景が一番の見どころ」と話す。
(1)JR男鹿駅からバスで約30分(2)http://www.oga-ogata-geo.jp/about
(静岡県西伊豆町) 390ポイント
海で泳ぐ伊豆のゴジラ
各地にあるゴジラ岩の一つで、伊豆だから「イズら」。海を泳いでいるように見え、「夕日の美しさにシルエットで浮かぶ時間帯が特に幻想的」(中尾隆之さん)。3月と9月が見ごろ。「岩の丸い穴に夕日が沈む撮影場所が限定され、場所取りで混雑する」(古宇田さん)。写真のように日没直後のシルエットも映える。
伊豆半島は2018年、世界ジオパークに認定された。西伊豆はゾウやカメに似た岩が多い「奇岩動物園」。イズらは「今年一番注目される奇岩」(水津さん)。「インスタ映えする絶景のデートスポット」(中田さん)
(1)西伊豆東海バス大田子バス停すぐ(2)https://www.nishiizu-kankou.com/
(茨城県つくば市) 340ポイント
今にも落ちそう 通れるか
頭上の岩が今にも落ちそうで、武蔵坊弁慶も7回戻ったと伝わる筑波山の岩。風化に強い斑レイ岩の塊のため、角張った形になり両側の岩の隙間に引っかかったといわれる。聖と俗を分ける門ともいわれ、「実際に見るとそのたたずまいに圧倒される」(曽我さん)。筑波山には他にも大仏岩、屏風岩などの奇岩が多い。数々の伝説も伝わり、「パワースポットを体感できる」(中尾さん)。
奇岩群を通る登山道は「変化に富み、“奇岩銀座”ともいえる人気の観光コース」(小林さん)。「筑波山登山で都心から気軽に行けるのが最大の魅力」(石原智さん)だ。
(1)筑波山シャトルバスでつつじケ丘バス停下車。ロープウエーの女体山頂駅から徒歩で約25分(2)http://www.mt-tsukuba.com/?page_id=899