そこで終わりではない。佐藤氏はそれらのデザインを実際に作るところまで支援し、いくつかは「equalto(イクォルト)」というブランド名で商品化もした。このブランドは今もアクセンチュアなどが運営しており、引き続きデザインを募集中だ。

メーカー、デザイナー、ユーザーの三位一体

これからの「ものづくり」とは何かを示したい

「単にデザインを特定の専門家に依頼するのでなく、コンペ形式にしたことで、障害者の置かれた現状を広く知ってもらえたことがよかった」。自らが主導して事業を立ち上げた経験もさることながら、佐藤氏にとって大きな収穫だったのは、人のために自分の持っている能力を生かしたいと考える人たちが予想以上に多いと確信できたことだ。その思いが後にトリナスを起業する原動力となる。

もう一つ大きな財産となったのが、デザイナーのネットワークだ。「このときに知り合ったクリエーターの中には、今も仕事で付き合いのある人が多い」。トリナスを起業し、デザインを募集し始めた初期の頃も、このネットワークがあったから多くの提案が集まった。

実際、トリナスの事業コンセプトはこのコンペが原型となっている。企業は固定概念にとらわれ、自分たちが持つ技術力の強みや可能性に気付きにくい。そこで、自由な発想をできるだけ多く集めて、新たな価値を持つ商品を生み出していく。

アイデアを募集するだけでなく、ものづくりまで支援するのも同様だ。トリナスの場合も、商品化するまで一緒に取り組むことに重点を置く。「我々は単なるマッチング企業ではなく、ものづくり企業だと思っている」。佐藤氏は力を込める。

社名のTRINUSはラテン語で「三位一体」を意味する。技術を持つメーカー、デザイナー、エンドユーザーの3者を取り成し、新しい価値を生み出す。メーカーだけが、ものづくり企業ではない。これからの「ものづくり」とは何かを、佐藤氏はトリナスの事業を通じて示そうとしているように見える。

(村上憲一)

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