まるで熟練テイラー 手間暇かけたカニの帽子作り
カニの仲間、カイカムリ。貝殻や生きた海綿で「帽子」をつくって被ることから、その名が付いた。これほどよくできた帽子を、どうやって作り出しているのか。京都大学の研究者が、その詳しい行動を明らかにし、査読前の論文を発表するサイト「bioRxiv」(バイオアーカイブ)に投稿した。実験の動画とともに、見てみよう。
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論文を発表したのは、京大白眉センターの動物生理学者、加賀谷勝史氏と、同大学瀬戸臨海実験所の原田桂太氏。
カイカムリが海綿の帽子を被るのは、天敵を寄せ付けないためだ。天敵から見れば、海綿は食欲をそそる存在ではなく、強い毒を持っていることが多い。カイカムリ科は世界に130種ほどいて、ひとかたまりの海綿を自分で切りとり、体に合う形に加工して、後ろ側の2対の脚を使って背負う。
周囲の環境にある物を使って自分の姿を隠すカニは多い。だが、カイカムリは非常に原始的なカニと考えられており、科学者の関心を引いている。比較的新しいカニよりも、彼らの神経系ははるかに単純だ。
それだけに、カイカムリがこうした道具を使うという事実にまず驚かされる。しかも、帽子の選び方、作り方について、あまりよく分かっていなかった。
加賀谷氏と原田氏の2人は、人工のスポンジを使って実験を試みた。まず、スポンジの材質には、家庭で汚れ落としに使われているのと同じメラミンを選んだ。入手しやすく、海水に沈むためだ。次に実験用水槽を用意し、38匹いるカイカムリ(Lauridromia dehaani)に、大きさの違う3種類のスポンジを与えて、ビデオで行動を撮影した。
映像からは、カイカムリが帽子作りに長い時間を費やす様子が分かる。研究によれば、スポンジを自分に合った大きさに切り取るのに平均で50分かかり、体がぴったりはまるよう丁寧にくぼみを作るのに5時間もかけていた。
大きなカイカムリほど大きなサイズのスポンジを選んで作業していた。だが予想外にも、最も大きな部類のカイカムリはスポンジに全く関心がないようだった。
「カイカムリは約9センチより大きくなると、スポンジを選ぼうとしなくなりました」。加賀谷氏はメールでこうコメントしている。
体が大きくなると、帽子を作る時間とエネルギーに見合うほど防御効果が高まらないのかもしれないと加賀谷氏は推測する。
(日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2019年2月18日付記事を再構成]
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