セカオワ、アルバムなぜ2枚 ダークとポップの意味
2018年の大みそか、5年連続で出場した『紅白歌合戦』で同年開催された平昌オリンピック・パラリンピックのNHK放送テーマソング『サザンカ』を披露したセカオワこと、SEKAI NO OWARI。もはや国民的バンドとなった彼らが、約4年ぶりとなるオリジナルアルバム『Eye』と『Lip』を2作同時にリリースした。『Eye』はダーク、もう一方の『Lip』はポップな楽曲が並ぶ。彼らがこれまで示してきた音楽性をより研磨し、作品性を高めた挑戦的なアルバムだ。
この4年、バンドは前進し続けた。アルバム収録曲『ANTI-HERO』や『SOS』で、海外の著名クリエイターとコラボし、シングル曲でありながら全英詞を貫いた。一方、前述の『サザンカ』やアニメ映画『メアリと魔女の花』の主題歌『RAIN』。ドラマ『リーガルV ~元弁護士・小鳥遊翔子~』の主題歌『イルミネーション』など、大型タイアップを多数手掛けた。そんな彼らの最新アルバムには意欲的な取り組みが散りばめられている。
Fukase(以下、F) 僕は本当に、目も口も両方「語るもの」だと思ってて。唇から意外と本音が出てくることもあるし、もちろん「目は口ほどに物を言う」でもある。どっちが本音かは分からないけど、本当に伝えたいものってなんだろうってところから、この2枚はできあがっていったんです。
Saori(以下、S) 4年の間、シングルは結構リリースしていました。シングルばかりのアルバムにしたくないから、2枚作ろうかって話がFukase君からあったんだよね?
Fタイアップのお話をいただいて曲を書き下ろすことが多かったし、僕らのポップな楽曲を好きだと言ってくれる人もいます。でもそればかりだと、僕の中に「お利口さんマイル」がたまっちゃうというか。自分を1方向にしか見てない、自分が1方向にしか歌ってない感じがあった。そういう曲ばかりをライブで歌っていると、立ち居振る舞いもそうなってくるんですよ。本当の自分とステージ上の自分とのギャップみたいなものも感じた4年でした。雑誌のインタビューを受けたりテレビに出ていても、頭の中では(メディアに)載せられないようなことばっかりが浮かんできて、そういう思いがアルバム『Eye』に入ってる。
Nakajin(以下、N) 曲を『Eye』と『Lip』に分けるとき、「これはこっち」みたいな感覚はみんな等しく持ってました。
「弱いまんま強くなれ なぁKid」と大人目線で呼びかける、アルバム『Eye』の1曲目『LOVE SONG』。かたや、『Lip』1曲目の『YOKOHAMA blues』では、過ぎた恋の甘美な思い出や痛みを艶っぽく歌う。ファンタジックでどこかエイジレス、ジェンダーレスな匂いも感じられた歌詞の世界観から、リアルな肉体を持つ大人へと脱皮したように見える。
F 今作は、自分を歌う楽曲が少なくなったなって。自分のことでいっぱいいっぱいだった僕が、自分はもう守る側なんだという意識がしっかり生まれた。その点で『LOVE SONG』は、かつての自分を見ているような楽曲かなと。
S アルバムで最初に着手した曲でもあるんですが、アレンジも歌詞も何度も変わって最後にできました。新たに書き替えてくれていた歌詞はもっと比喩が多くて、伝えたいことが分かりにくかった。そんなにすかさなくていいよと、だいぶ長い時をかけてFukase君を説得しました(笑)。
F 僕は「こんな暑苦しい歌詞は嫌だ」って、どんどん熱量を減らしていったんだけど。Saoriちゃんが目指すものと僕の目指すものが違っていた。だから、僕はあんまり気に入ってない。
S 自分で書いたのにね(笑)。
F メロディーがかっこいい分、熱血教師みたいな歌詞がサイアクだなって。アルバムの最初に手掛けた曲だから、かっこつけたい自分もいたと思う。
初めての普通のラブソング
S 歌詞を元に戻すことを承知してくれたのは、『Blue Flower』と『Food』を作れたからだなって思ってるんだけど。
DJ LOVE(以下、L) この2曲は絶対にアルバムに入れると言ってた(笑)。
F『Blue Flower』は歌詞を見てマネジャーが、「これは販売できないんじゃないか」って(笑)。制作中のフラストレーションもあってどんどん曲ができて、結局当初の予定より曲数が増えました。『Lip』で最初に作り始めたのは『YOKOHAMA blues』で、こちらはとても気に入ってます(笑)。Nakajinのメロディーが上がってきて、歌詞はずっと温めていた横浜を舞台にミュージシャンになり始めた頃を振り返るラブソングを書こうと。どちらのアルバムもラブソングから作り始めたことになるね。
S Fukase君が普通のラブソングをようやく書いたなって。エロ要素が入るのもうちのバンドにしたらすごく珍しくて。
End of the World名義で海外のライブハウスを回るなどして、バンドの基礎力も高めてきた。様々な形で音楽と真正面から向かい続けてきた4人は、絆と音楽性への自信を深めてきたのだろう。その自信と比例して、創作の窓は外に開かれていった。『ANTI‐HERO』や『SOS』(ともに映画『進撃の巨人 ATTACK ON TAITAN』シリーズ主題歌)で海外の著名クリエイターをプロデュースに迎えたのをはじめ、『サザンカ』では小林武史と組むなど、外からの風が入り、制作が一層活性化したようだ。
N 今回は、楽器を実際に鳴らすことが前作と比べてグッと増え、フィジカルな作品になりました。僕らのライブはセットも演出も派手ですが、1人ひとりがミュージシャンとして成長し、スキルが上がっている。ミニマムに4人だけでも見せられるという意識が、ここ4年で強まったのだと思います。
F 一方で、『Food』と『Witch』はスマートフォンのアプリを使って作った曲。音が薄いと感じることもあるんですけど、それが逆に今っぽい音になって良かったりするんです。
L 僕は『Missing』で、Nakajinと横並びで和太鼓を叩いたのが楽しかったな。
N LOVEさんはいろんな楽器で参加してもらってます。ファンクラブツアーではドラム、ブレーメンのようなアコースティック編成のライブはパーカッションを担当してもらってて。ドラムはLOVEさんが踏むと重量感があるからいい音がするんです。
L おだてられてバスドラを踏んだら「重すぎる」と(笑)。それで手で踏んでみようとか、マレット使って大太鼓みたいにしようとかトライ&エラーを重ねました。
F これまではやることが山積するなかでアルバムを作っていて、気付いたら出来てたという感じ。今回は時間が取れたし、音楽を作ってるという感覚がちゃんとあります。スタジオ近くの東京タワーをふらふらしながら『Blue Flower』ができたなとか。風景までしっかり覚えてる。歌も自ずと楽曲にふさわしいものを追求したくなった。けど、Saoriちゃんのディレクションが超恐くて(笑)。最後には怒鳴り合ってた。
S Fukase君の歌は、ここ数年で本当にうまくなってる。以前は技術と引き換えに、心が失われるんじゃないかという恐怖感がありました。でも今は、スキルが上がっても失うものはないという自信を得たんだと思います。それはすごく尊敬しているけど、その分本人が求めることも増えて。私はそこまで集中して歌うことがないから申し訳ないんですが、Fukase君がディレクションに怒って…。
F 「10回歌うのをまず聴いて」と言ったのに、途中で「ここは直して」って言われたから「10回歌うって言ってるだろう。黙って聴け!」と言っただけ(笑)。
S 譜割が違ってたから、そこを直して歌ってもらいたくて。仕方ないので聴き終わってから、冷静に「譜割、違います」と(笑)。
N 今作は、各々のミュージシャン性みたいなものをアルバムに入れられた気がしますね。最良の形で表現するため、いろんな方の力も借りました。計画的に割り振っていかないと完成しないほど曲数も多かったので、僕もSEKAI NO OWARIに依頼されてるアレンジャーの1人という感覚もありました。
外部アレンジャーからの学び
S プロデューサーの小林さんとは『RAIN』が最初で、曲作りの途中で悩んだときに相談に乗ってもらった感じです。『サザンカ』は、曲の展開をもう1つ増やしてみたらいいんじゃないとか、具体的に提案してくれたんだよね。
N メロディーや歌詞は決まってたけどテンポで迷って。小林さんが作るポップスは、パーツで聴くとエッジが効いてるけど、全体で聴くとど真ん中を行ってるんだと気づきました。
S 『千夜一夜物語』はメンバー内で試行錯誤した末に斎藤ネコさんにお願いしました。斎藤さんは、実際にFukase君が歌いながらピアノを弾いて曲のキーを決めたりして、その場で空気感をつかんでいく面白いやり方でした。
N データやデモ音源じゃなく、紙楽譜の人だったね。
S アレンジがスコア譜で来たのも新鮮でした。
N レコーディングは50人以上が参加の一発録りで。
S 50人以上がさっと来て、さっと帰っていった。私たちは1個1個楽器を重ねるやり方だったから衝撃的でした。1度に録ることで、音楽に空気を含ませるやり方もあるんだなって。すごく面白かったですし、気に入ってます。ネコさんには『夜桜』(『Eye』収録)のアレンジもお願いしました。
F 『夜桜』は僕らからすると珍しい直球のラブソングです。
N この曲と『Lip』収録の『向日葵』は一部のメロディーが一緒なんです。Fukaseがメロを持ってきて、「この曲で2つ歌詞を書きたいからサビを考えてくれないか」って。既にあるメロディーに合うサビを考えるのが結構大変で。でも、コンセプトも含めて作ってて面白かったですね。
F 一見似ていないけど、実は同じ。異質な双子というか。どちらも4曲目に置きました。今回の裏テーマにラブソングをたくさん書こう、というのがあったんですよ。
S これまでFukase君が書いてきたラブソングって、相手がロボットだったり、炎と森のカーニバルに行ったり、設定が突飛なものが多かったんです。でも今回はスタンダードなラブソングに挑戦した。他のバンドにしたら当たり前なんだけど、うちらからしたら「新しい一歩」なんだなってすごく感じますね。
(ライター 橘川有子)
[日経エンタテインメント! 2019年3月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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