ロシア 極寒の「監獄」で衰弱するシロイルカとシャチ
ロシア極東ナホトカ近くのスレドニャヤ湾に作られたいけすに、シャチ11頭とシロイルカ87頭が閉じ込められ、衰弱している。海の生きものを水族館に供給するロシアの4つの企業が、2018年の夏に数カ月かけて捕獲したものだ。同年11月、この施設の様子がドローンで空撮され、動物たちの窮状が報じられると、メディアは「イルカの監獄」と呼んだ。
ロシアの地方当局は、違法に捕獲されたと疑われる海洋哺乳類について、同じく2018年11月に捜査を開始。ロシアの検事総長は、これらの動物を中国など他国の水族館に販売するのは違法だと警告した。
サハリンと極東沿岸を拠点とするNGO「サハリン環境ウオッチ」代表のドミトリー・リシツィン氏は、閉じ込められた動物たちの健康状態はかなり悪いようだと危惧する。当局はリシツィン氏や海洋哺乳類の研究者、それに獣医師を招き、2019年1月18日と19日に施設に立ち入り、動物の健康状態を調べた。
リシツィン氏によれば、シロイルカ87頭のうち15頭は子どもで、捕獲の時点ではまだ離乳していなかった可能性が高い。また、どのシロイルカも弱っていたようだという。施設の職員は囲いの中に張った氷を定期的に砕き、動物たちが水面に出られるようにしているとリシツィン氏は説明する。
そうしないと、呼吸ができずに死んでしまうからだ。シロイルカは「氷の張った海で生活するのには慣れています」とリシツィン氏。「しかし、わずか12×10メートルのスペースに収容され、しかも人間が頭上からシャベルを打ち付けてくるような環境には慣れていません」
また、シャチの状況はさらにひどいという。シャチは冷たい水中で暮らすのには慣れているが、通常、冬の間は南に移動する。リシツィン氏が撮った映像からは、数頭のシャチの背びれやその周囲の皮膚に病変があるのがわかる。映像を確認したリシツィン氏と研究者は、病変は長期間低温にさらされたことによる凍傷か、よどんだ水から発生したカビか細菌感染のいずれか、または両方ではないかと話している。
モスクワに本部がある獣医学・生物工学アカデミーの教授で、獣医のタチヤーナ・デニセンコ氏もリシツィン氏と共に施設に立ち入り、シャチの病変と水のサンプルを採取した。「11頭のシャチのほとんどで、皮膚に種々の微生物がびっしり付いていました」とデニセンコ氏。いけすの中に残った餌が腐り、そこからシャチの皮膚に感染している可能性があるという。
デニセンコ氏やリシツィン氏ら専門家が特に懸念しているのが、「キリル」と名付けられた若いシャチだ。動きが非常に鈍く、皮膚の病変も広い範囲に及んでいた。リシツィン氏はキリルが死んでしまうのではないかと心配している。
2月21日現在、1頭のシャチが見えなくなった。施設を運営する会社は逃げたと言うが、専門家は「ありえない」とし、おそらく死んだのではないかと考えている。事態を重く見たプーチン大統領は、捜査当局に3月1日までに結論を出すように指示を出した。
(日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2019年2月12日付記事を再構成]
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