仮装は爆発だ! 創造力あふれるハイチのカーニバル

2019年3月5日は「マルディ・グラ」(キリスト教の祝日)の日。米国のニューオーリンズでは、毎年1月からこの日までカーニバルを行うことで有名だ。ところ変わって、カリブの島国ハイチでも同じように、この日を祝ってカーニバルが開催され、人々が繰り出す。ただ、その衣装は風変わりだ。フランス人写真家のコレンティン・フォーレン氏の写真で見ていこう。
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ハイチにおいて、祝祭とは魂の浄化(カタルシス)だろう。「マルディ・グラ」の日まで数週間にわたって行われるカーニバルは、まさに、この国最大の祝祭だ。

ハイチのカーニバルは、100年以上にわたり様々な街で続けられてきたなかで、この国独自の文化を体現する場となった。過去に中止になったのは、2010年のハイチ地震(M7.0)のときだけ。それから10年近く経っても、ハイチは最貧国の一つに数えられ、近年はコレラの流行にも苦しめられた。そうした中でカーニバルは、この島の人々の復活力を象徴する存在となっている。
ハイチの苦境を伝えるニュースの繰り返しに心を痛めていたフランス人写真家のコレンティン・フォーレン氏は、ハイチ南部の小さな街ジャクメルに赴いた。そして、虐げられた大衆として表現されがちな人々の創造力とスピリットを写真に収めた。

「ハイチと言えばいつも貧困が話題になりますが、私に言わせれば最も豊かな島の一つです。金銭的にではなく、人の想像力が豊かなのです」とファーレン氏は言う。
撮影を始めるにあたり、ファーレン氏は、カーニバル会場に近い歩道に即席の撮影スタジオを設置した。個性的な衣装を身に着けた島の人々のポートレートを撮るためだ。ファーレン氏には、島民一人ひとりに焦点を当てることで逆に彼らを力づけることができたらという思いがあった。


ハイチの文化は、島に定着したフランス、カリブ、アフリカの文化が混ざりあったものだ。祭りに参加する人々は、大いに芸術性を発揮して、こうした文化を自分たちのカーニバル衣装に織り込んでいく。ペンキを全身に塗ったり、仮面を付けたりといった衣装の数々は、社会全体に深く染み付いている格差から、人々が逃れるための手段でもある。

衣装には紙の張り子で作られているものと、肌にペンキを塗ったものが多い。なかにはブードゥー教の呪術師やアフリカの野生動物を模したもの、幻想的な雰囲気を漂わせるものもある。社会が不安を抱えている時期には、衣装にも皮肉や政治的な批評が反映される。

ハイチの人々のポートレート写真を通じて、どんなことを伝えたいのかとの問いに対し、ファーレン氏は何もありませんと答えている。ハイチの人々は、自分たちの物語が外部の人間によって語られることが多い。ファーレン氏は、自分が撮ったポートレートによって、いつもとは異なるハイチの一面、つまり「貧困、暴力、人道主義的な問題とはかけ離れた」姿を、シンプルに見せることができれば、と願っている。
次ページでも、ファーレン氏が撮った個性豊かなカーニバルの衣装を8点の写真で紹介しよう。








(文 SARAH GIBBENS、写真 CORENTIN FOHLEN、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2017年2月23日付記事を再構成]
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