日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/3/3

生命の痕跡を探せ

鍵となるバイオシグネチャーが酸素だ。地球上では、植物やある種の細菌が光合成の副産物として酸素を生成する。そのため大気中に酸素が見つかれば、かなり有望だ。最も有望なのは、酸素とメタンの両方が検出された場合だろう。生物が放出するこの二つのガスは化学反応でほかの物質に変わりやすいので、両方が存在するなら、生物によって絶えず補充されていると考えられるからだ。

ほかにも生命探しの指標となるバイオシグネチャーはある。いわゆる「レッドエッジ」もその一つ。植物に含まれるクロロフィル(葉緑素)は、人間の目には見えない近赤外線を反射するため、この波長域で反射率が急激に上昇する。赤外線望遠鏡による観測で惑星のスペクトルにレッドエッジが見られれば、そこには植生があると考えられる。ただし、ほかの惑星の植物は異なる波長の光を吸収する可能性もある。

スペクトル分析で存在が予測できるのは植物に限らない。米コーネル大学カール・セーガン研究所のリサ・カルテネガー所長率いるチームは137種の微生物の存在を示すスペクトルを調べて論文を発表した。そのなかには、ほかの惑星では当たり前の環境かもしれない地球上の極限環境に生息する微生物も含まれる。こうした研究が進むにつれ、当然ながら次世代望遠鏡の登場に熱い期待がかかる。「十分な集光が初めて可能になり、多くの謎を解明できるでしょう」とカルテネガーは言う。

地上設置型で真っ先に登場する最大の次世代望遠鏡は、チリのアタカマ砂漠で建設が進むヨーロッパ南天天文台の欧州超大型望遠鏡(E-ELT)だ。稼働開始は2024年を予定している。口径39メートルの主鏡の集光力は、既存のすばる級の望遠鏡をすべて合わせたよりも大きい。ギヨンの装置の改良版を搭載し、赤色矮星のハビタブルゾーンにある惑星の撮像も十分可能だ。

地球から約4.2光年、距離にして約40兆キロ先にある、太陽系に最も近い赤色矮星プロキシマ・ケンタウリのハビタブルゾーンには、プロキシマ・ケンタウリbと呼ばれる岩石惑星がある。「興味深い観測対象です」とギヨンは言う。生命が見つかる確率が高いのは、太陽型の恒星を周回する地球型の惑星だとギヨンら多くの科学者は考えている。ただし、地上設置型の巨大望遠鏡では、地球型惑星の光を、それより100億倍も明るい太陽型の恒星の光のなかから取り出すのは不可能だ。

そこで、現在考えられているのが、「スターシェード」と呼ばれる宇宙探査装置部品だ。完成すれば直径30メートル余りの巨大なヒマワリのような装置になる。まさに日よけだ。この装置を宇宙望遠鏡に配置することで、スターシェードの端から差し込む、地球型惑星のかすかな光をキャッチしようというのだ。

スターシェードはNASAのジェット推進研究所で開発されているが、完成は10年ほど先になりそうだ。米マサチューセッツ工科大学の天体物理学者セーラ・シーガーはこのプロジェクトを率いたいと考えている。宇宙空間に巨大な花びらが広がると、遠くにある恒星の光が遮られ、その恒星を周回する惑星の生命の痕跡を探れる。想像するだけでも、心躍る探査計画だ。

(文 ジェイミー・シュリーブ、写真 スペンサー・ローウェル、イラスト デーナ・ベリー、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック日本版 2019年3月号の記事を再構成]

ナショナル ジオグラフィック日本版 2019年3月号

著者 : 日経ナショナルジオグラフィック社
出版 : 日経ナショナルジオグラフィック社
価格 : 1,110円 (税込み)


[参考]ナショナル ジオグラフィック日本版3月号では、今回抜粋して紹介した「地球外生命 探査の最前線」では、系外惑星まで実際に探査機を飛ばす「ブレイクスルー・スターショット」計画も紹介しています。ほかにも、EU離脱で揺れるロンドンの今を追った「新時代を迎えるロンドン」、命綱も登山用具も使わずに米カリフォルニア州の一枚岩「エル・キャピタン」を登ったアレックス・ホノルド、貧困から抜けきれない中米エルサルバドルの混乱のドキュメント「暴力が巣くう国の行方」を掲載しています。
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