お金に心揺さぶられる生き方しない 伊集院静氏の流儀

子供の頃から父親に、「いつでも『大丈夫』と言える男になりなさい」と言われてきました。今思うと、どんな状況であっても家族や周りにいる人に安心感を与えられるようになれ、という意味だったんでしょうね。

お金に心を揺さぶられるような
生き方は絶対にしない──
そう決意させた若き日の無念

――「一見、無駄と思える銭を使いなさい」「人間は銭が手に入った時、どう使うかで、或る器量は計れる」など最新刊にはお金についての「大人の流儀」も登場します。

お金は大事だと思いますよ。でも私はカネに左右される生き方は絶対にしないと決めています。

前の妻(女優の故・夏目雅子さん)が27歳で白血病を発症した三十数年前、米国の病院で治療を受ければ治る可能性があると言われましたが、治療費は5000万円以上。当時の私にはそんなお金はありませんでした。おやじに頼みに行けば援助してくれたかもしれないけれど、それはしなかった。

親子だからという理由だけで数千万のお金を借りるのはおかしいし、そんなことをしたら自分たち夫婦の機軸を失うんじゃないかとそれ以来、お金に心を揺さぶられる生き方はしないと決めました。

――お金をいかに稼ぎ、どう使い、どう生きるか。とても重い問い掛けです。

お金については多くの人が、「ないと生きていけないもの」ぐらいにしか考えていないと思います。でも、自分の人生においてお金とはどういう位置付けなのか、どう向き合っていくのかを、一度じっくり考えるべきだと思います。

「カネで得られるものは、たかが知れている」というのが私の考えです。人間が本当に欲しいもののほとんどは、お金では買えないのではないでしょうか。

――なるほど。ちなみに伊集院さんは株式投資をしたことは……。

全くありませんが、ある思い出があります。電電公社の民営化でNTT株が売り出され大人気だった時代、あるバーでたまたま一緒になった有名なプロ野球選手が、「NTT株が手に入った」と周囲に自慢していたんですよ。私も酒が入っていたので、つい立ち上がって、「もう十分稼いでいるんだから、儲かった分皆に分けてやったら?」と彼に言った。相手は「この人は一体、何を言っているんだろう……」という顔で私を見ていました。そりゃあそうですよね(笑)。

ただ、「持つ者が持たざる者に与える」というのは世の摂理だと思うのです。自分だけが稼いで富を独占するのではなく、周囲と一緒に豊かになっていく。商人の世界には「三方芳(よ)し」という言葉もあります。

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