謎のジブリ広告ってなんだ? ~年末年始に注目してみたい企業
ホンネの就活ツッコミ論(89)
今回のテーマは「年末年始に注目してみたい企業」です。年末を迎えると実家に帰省する、という地方出身の学生がいるはず。あるいは、家族と一緒にテレビを見る機会も増えるに違いありません。今回はそんな身近な年末年始の風景から見える企業選びについて解説します。
羽田空港、広島駅などで見える謎のジブリ広告
羽田空港第1旅客ターミナル 南ウイング2F・第2旅客ターミナル 到着ロビーや広島空港、JR福山駅など7か所で、ジブリ風アニメの企業広告を見ることができます。飛行機を利用する学生は何の会社か、そもそもなぜジブリ風なのか、疑問に思った方も多いはず。
この企業はダイカストという自動車部品で使われる製品のメーカー、リョービです。同社サイトには、ジブリのアニメ監督を務めた近藤勝也氏を起用した、とあります。
このキャラクターは、「魔女の宅急便」 「となりのトトロ」 など、宮崎駿氏の一連の人気アニメ作品の作画を手がけた近藤勝也氏の手によるオリジナル作品です。 2008年に公開された映画「崖の上のポニョ」では作画監督として活躍され、主題歌の作詞も手がけられました。
「くらしごこち家族」は、リョービのさまざまな広告宣伝の中に登場しています。
(同社サイトより)
リョービ以外にも空港・新幹線駅に目立つ企業広告
空港や新幹線駅で目立つ企業広告はリョービだけではありません。他の企業広告も多種多様、展開されています。心なしか、食品や化粧品などよりも多いような。なぜ、空港や新幹線駅で企業広告は多く出稿されるのでしょうか。
これは、主力客の違いにあります。通勤・通学路線だと、日用品や化粧品、食品や携帯電話の広告が目立ちます。通学路線だと自動車教習所なども含むところ。これは、それだけ日常的に利用している客が多く、広告を打つ効果があるからです。
一方、飛行機や新幹線だと観光客と並ぶ主力客層がビジネス利用者です。出張のために利用するわけですが、このビジネス利用者は全てBtoC企業というわけではありません。むしろ、BtoB企業の関係者も多くいます。このBtoB企業のビジネス利用者に対して「うちの製品(サービス)をぜひ」と勧める目的もあります。
が、それよりも、とあるBtoB企業の関係者は声を潜めて話してくれました。「いや、広告を打って製品・サービスの宣伝というよりは、企業のステータスです。うちはこれだけの駅・空港で広告を打てるよ、という」
な、なるほど。
年末年始のテレビで増えるBtoB企業CMは学生と親狙い
この空港・新幹線などの交通広告だけではありません。BtoB企業CMが異様に増えるのが、年末年始にかけてです。NTN、村田製作所、日清紡、豊田自動織機、キーエンス...。あれ、この企業、普段は何をやっているのだろう、と不思議に思う方も多いでしょう。しかもCMは単に企業名を出すだけでなく、何か一ひねりしている、という特徴もあります。
このBtoB企業のテレビCMは新幹線・空港の広告とはやや意味合いが異なります。テレビCMは製作費や放映費用を考えれば安くても数千万円から1億円以上、することも。
では、なぜそれだけのコストをかけてテレビCMを流すのか、理由は簡単です。年末年始の時期だと家族でテレビを見る機会が増えます。そこに企業CMを流すことで、親に対しては「おたくのお子さん、わが社でどうですか」。学生に対しては「うちの会社、どう? 優良企業だよ?」と訴えるのです。
実際、BtoB企業の多くは知名度が高くありません。それもそのはず、消費者相手のビジネスではないため、消費者が知らないにも当然だからです。と言って、放置しておくと学生が集まりません。BtoB企業だと理工系出身者はもちろんのこと、文系出身の総合職も採用する必要があります。そのためには知名度を上げなければなりません。その手法の一つが年末年始から増える企業CMなのです。
新幹線・空港のCMも費用がかかりますし、テレビCMとなると、もっとかかることは前記の通り。それを出せる、ということはそれだけ利益を出している優良企業、とも言えます。
ふと入ったセブンイレブンで~富士電機
大晦日の年越し参りの合間に寒さをしのぎたくて。あるいは、お正月中、お酒を買いに、などなど様々なシーンでコンビニに行くことでしょう。このコンビニの最大手、セブン・イレブンで私がつい買ってしまうのが100円コーヒーです。手軽だし、第一、美味しい。
このコーヒーメーカーを作っているのが富士電機です。と言ってもコーヒーメーカーの専業ではありません。重電では業界4番手でベスト3は日立、三菱電機、東芝と知名度の高い企業ばかり。ところが、この富士電機、それから重電業界5番手の明電舎、同6番手の日新電機となってくると、知っている学生は極端に少なくなります。
では、知名度が低いからダメか、と言えばそんなことはありません。富士電機に戻ると年々業績を上げており、8934億円(2017年3月期)と売上高1兆円にちかづきつつあります。富士電機は意外なところでは、富士通の母体でもあります。それと自動販売機もトップシェアです。
このように、年末年始に家族と一緒に暮らす中でも、意外な企業が見え隠れしてきます。そうした企業も含めて就活を検討すると、より視野も広がるのではないでしょうか。
1975年札幌市生まれ。東洋大学社会学部卒。2003年から大学ジャーナリストとして活動開始。当初は大学・教育関連の書籍・記事だけだったが、出入りしていた週刊誌編集部から「就活もやれ」と言われて、それが10年以上続くのだから人生わからない。著書に『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書)、『女子学生はなぜ就活で騙されるのか』(朝日新書)など多数。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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