旭化成名誉フェロー 吉野彰氏 「歴史を自分でたどり近未来を予測」 若者と考える未来 大志をつなぐ

聞き手 1981年にリチウムイオン電池の発明につながる研究をされましたが、その前に幾つか失敗されたそうですが。

吉野氏 イノベーションを起こすには、研究開発で何か新しいものを見いださないといけないですよね。普通、研究テーマを決めて2年ほど探索して、見込みがあれば、もう2年続けましょうと。ダメなら別のテーマを探すことになります。

聞き手 2年間で見通しをつけることが必要なんですね。

吉野氏 そうです。結果としてリチウムイオン電池の開発につながったのが、4番目の研究テーマでした。1~3番目は失敗しました(笑)。

聞き手 リチウムイオン電池開発の経緯を簡単に教えてください。

吉野氏 皆さんが使うパソコンの中に丸い電池がありますね。これが4本、6本セットで入っています。筒状の内部には薄い正極と負極の間にセパレータがあって、それらをぐるっと巻いたものが入っています。正極が金属酸化物で、負極がカーボン材。負極にカーボンを使うというのが安全性を高めるためのポイントになりました。

聞き手 そこに気づかれたというのが、発明のポイントだったのですか。

吉野氏 そうです。実は2000年にノーベル化学賞を受賞した白川英樹先生が発見されたポリアセチレンという、電気が流れるプラスチックに関心を持ったのがきっかけでした。当時、2次電池の商品化に失敗していて、負極に問題点があることがわかっていました。ポリアセチレンを応用したらおもしろそうだなと。

聞き手 なるほど。

吉野氏 その後、ポリアセチレンの評価を進めたときにもっとコストが安い、カーボン材料でも十分役割を果たすことがわかり、現在のリチウムイオン電池の開発につながりました。

聞き手 製品化までのべ15年の月日を費やされましたね。

吉野氏 皆さん、(研究者としての)勝負は36.8歳ですよ。歴代のノーベル化学賞を受賞された人が「あなたはこの受賞の研究を何歳から始めましたか」という質問を必ず受けます。平均が36.8歳なんですよね。少々リスクを負ってでも、俺はどうしてもこれをやるんだという年齢なのだと思います。そのときに備えて勉強していけば、イノベーターとして世界で認めてもらえるのではないかなと思います。

バズワードを調べてみる

吉野氏 これも覚えておいてほしいのですが、さきほど未来を読むのに過去の歴史からさかのぼって未来を予測してみようと言いました。もう一つは、buzzword(バズワード)という言葉をぜひ、調べてみてください。

聞き手 学生のみなさんは、バズるとか、そういう言葉を使わないかしら?

吉野氏 世の中が変わる10年ぐらい前に、まず言葉が先に生まれます。これがバズワードです。1995年にIT(情報技術)革命が起きる10年前、85年に"インターネット"というバズワードが世界にあふれました。もう一つの言葉が"マルチメディア"。1つのメディアで世界中の人と情報を共有できますよと。今になって「何だ、スマホのことか」と。必ず実現するのです。今まで聞いたことがない単語に出合ったら、必ず調べてください。それがバズワードの可能性があります。

◇    ◇

《質疑応答》

技術革新にどう向き合う?~環境問題の解決重要

学生 実験で予想外の結果がでた場合、自分の予想が間違っていたと疑うべきか、実験の方法が間違っていたと考えるべきですか。

吉野氏 実験の検証は大事ですが、予想に反する結果が出たときは、ひょっとしたらとんでもない何か新しいものがそこに潜んでいる可能性を考えてみましょう。

旭化成の吉野彰名誉フェローに質問する生徒(東京都世田谷区の東京学芸大付属高校)

学生 企業に入った場合、研究の自由度はどのくらいありますか?

吉野氏 技術者の主な配属先は製造現場、顧客に自社の技術を説明する「技術営業」と呼ばれる営業職、それから研究所の3つです。自由度が高いのは研究所で、探索研究や基礎研究を手掛けます。ただし、1人で孤独な作業です。

研究者1人当たりの年間予算は約3000万円と想定されています。そこまでは割と自由に使うことが許されます。1億円を超えてくると、「成果はどうだ」とか言われるようになっちゃう(笑)。

学生 イノベーションと今後、どう向き合えばいいのでしょうか?

吉野氏 非常に重要な質問ですね。科学の進歩は人類を幸せにするのか、という問いですね。ルネサンス以前は宗教の力が強大で、科学や芸術がそれに奉仕する格好でした。ルネサンス以降は科学の発達が目覚ましく、産業革命が起きて人間が環境破壊を引き起こしたわけです。環境問題を解決することはあなたの問いへの1つの答えになるでしょう。また、これからの製品、技術には芸術的センスが求められるようになると思いますよ。人の心をくすぐる、まさに芸術の役割ではないですか。

(日本経済新聞2018年12月11日付)

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