乳製品、たくさん食べる人は死亡リスク低く
乳製品の摂取量が多い人ほど、循環器疾患にかかるリスクや死亡するリスクが低いことが、カナダの研究で明らかになりました。
低脂肪でない乳製品は本当に体に悪い?
肥満が社会的な問題になっている先進国の多くは、食事に関するガイドラインで、全乳製品(乳脂肪分を除去していない〔低脂肪ではない〕乳製品)の摂取を極力抑えるよう勧めています。全乳製品には飽和脂肪酸が多く含まれているために、血液中の脂質(中性脂肪やコレステロール)の値に有害な影響を及ぼし、循環器疾患(脳卒中、心筋梗塞、心不全などの心臓・血管系の病気)と、それらによる死亡のリスクを高める可能性があると考えられているからです。
しかし、全乳製品の摂取を控えたほうが健康に良いことを示す確かな情報はほとんどなく、乳製品には健康に良いさまざまな成分が含まれています。そこで、カナダMcMaster大学のMahshid Dehghan氏らは、世界21カ国(欧州、北米、南米、アフリカ、中東、南アジア、東南アジアの国々と中国)に住む35~70歳の約15万人のデータを基に、乳製品と健康の関係について検討することにしました。
研究に参加した人々には、調査票を用いて乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズなどを含む製品)の摂取習慣を尋ねました。1回の摂取量は、牛乳ならグラス1杯、ヨーグルトはカップ1杯、チーズは1切れ(15g)などとして、それらを1日に何回摂取するかを「1回」から「6回超」の中から選んでもらい、1日の摂取総量を推定しました。さらに、摂取していた乳製品を全乳製品と低脂肪製品に分類しました。
2003年1月1日から2018年7月14日までに、15万3220人の調査が完了しました。乳製品の摂取が多かったのは、欧州、北米、中東、南米の人々でした。ヨーグルトは、中東、欧州、北米、南アジアで、チーズは欧州と北米、中東でより多く摂取されていました。バターは南米、欧州、北米、中東で多く食べられていたものの、平均摂取量は少ないことが分かりました。
今回分析対象にしたのは、必要な情報がそろっており、調査時点で「循環器疾患にかかったことがない」などの条件を満たした13万6384人(92.3%)です。
摂取量が多いほど死亡や循環器疾患のリスクは低下
9.1年の追跡期間中に、6796人が死亡していました(循環器疾患以外による死亡が4796人、循環器疾患による死亡が2000人)。心筋梗塞を発症した人は2594人、脳卒中は2718人、心不全は516人でした。「死亡または循環器疾患発症のいずれか」(以下、複合イベント)を経験していた人数は、1万567人になりました。
1日に2回を超えて乳製品を摂取する人の複合イベントのリスクは、乳製品を全く摂取しない人と比べて16%低くなっていました。死亡のリスクは17%減、循環器疾患発症のリスクは22%減でした。すべて、摂取量が増えるほど、リスクは低くなる傾向が認められました。
個々の循環器疾患のうち、脳卒中のリスクは、乳製品を摂取しない人に比べ、1日に2回を超えて摂取する人のほうが34%も低くなっていました。一方で、心筋梗塞のリスクと乳製品の摂取量の間には、統計学的に有意な関係は見られませんでした。
乳製品を全乳製品と低脂肪製品に分けて分析しても、結果は上記と同様でした。
乳製品の種類別に見ると、牛乳の摂取については、全く飲まない人に比べ、1日に1回を超えて摂取していた人々の複合イベントのリスクは10%低く、循環器疾患のリスクも18%低いことが明らかになりました。死亡リスクとの間には有意な関係は見られませんでした。
ヨーグルトでは、1日に1回を超えて摂取していた人の複合イベントのリスクは14%低く、死亡のリスクは17%低くなっていましたが、循環器疾患リスクの低下は統計学的に有意ではありませんでした。ただし、循環器疾患の場合も、ヨーグルトの摂取量が多い人ほどリスクは低い傾向が見られました。
チーズの摂取量、バターの摂取量については、複合イベントや死亡との間に有意な関係は見られませんでした。
最後に、乳製品由来の飽和脂肪酸の摂取量と、複合イベント、死亡の関係について検討しましたが、有意な関係は認められませんでした。
今回得られた結果は、乳製品の摂取量と、死亡および循環器疾患発症のリスクとの間に逆相関関係が見られることを示し、乳製品の積極的な摂取を支持するものとなりました。
論文は、2018年9月11日付の英国Lancet誌電子版に掲載されています[注1]。
[注1] Dehghan M, et al. Lancet. 2018 Nov 24;392(10161):2288-2297. doi: 10.1016/S0140-6736(18)31812-9. Epub 2018 Sep 11.
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。
[日経Gooday2019年1月16日付記事を再構成]
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