山本さんは次のようにアドバイスする。「健診で貧血といわれなくても、だるい、疲れやすいなどの不定愁訴がある人は、かかりつけ医に『隠れ貧血かもしれないのでフェリチンを測りたい』と相談してみるといいでしょう。保険適応の場合、1500円程度で検査できます。また、会社の健康診断でも自費でフェリチンの検査をプラスできる場合があるようなので、気になる人は事前に問い合わせてみてほしい」
なお、フェリチンの基準値は検査機関によってまちまちで、「成人女性の場合、日本では5~157ng/mlと範囲が広く、下限が低過ぎるともいわれています。どこを下限とするかについては議論がされているところ。ちなみに、欧米ではフェリチン100ng/ml以下で鉄不足とするようです」と山本さん。
1.疲れやすい・だるい
2.氷をとにかく食べてしまう
3.「顔色が悪いね」とよく言われる
4.食生活が偏っている
5.食事制限をしている
6.月経の出血量が多い
7.爪が薄くて弱い
8.階段や坂道で、息切れしてしまうことが多い
一つでも心当たりがあれば、鉄欠乏の可能性がある。「理由ははっきりしていないが『氷が食べたくなる』のは専門家の間では有名な貧血の症状」(山本さん)。
妊活女子は、妊娠前に貧血解消を
実は、女性の中でも貧血がより深刻な問題になるのは、妊活中の人だ。「妊娠すると胎児に栄養や酸素を与えるために、母体には妊娠前の30~50%増の血液が必要になり、赤血球の材料である鉄の需要も増す」(山本さん)からだ。妊娠すると必ず貧血の検査を受けさせられるのはこのためだ。しかし、日本の妊婦は貧血の人が多い。「妊婦の30~40%が貧血(前出の※1)という数字がありますが、この数字は先進国の平均の18%よりも、発展途上国の平均の56%に近い数字なのです」と山本さん。
「妊娠初期に妊婦が貧血だと胎児に影響が出ても不思議ではない」と山本さんは心配する。そして実際、ハーバード大学の研究では、妊娠初期から中期にかけて貧血だった妊婦の赤ちゃんは、低出生体重児になるリスクが1.29倍、早産になるリスクは1.21倍(※5)との報告があるのだ。
こうしたさまざまな影響を避けるために、妊娠後の検査で貧血だと分かれば鉄剤が処方される。しかし、鉄剤を飲んでも貧血や隠れ貧血はすぐには改善されない。ここが困った点なのだ。
「妊娠が判明するのは多くは4~7週ごろで、そこから鉄剤を飲み始めても、ヘモグロビンの値が正常化するには2~4カ月、フェリチンの値が正常化するには大体6カ月かかります。つまり、胎児の骨格や臓器、神経などが形成される妊娠8~11週ごろは、まだ貧血は改善されていない状態。十分な酸素がない中で胎児の器官が形成されることになってしまうのです」(山本さん)
加えて、妊娠初期はつわりで食事の量が減るなどで鉄の摂取量も減りやすくなる。鉄剤で補おうとしても、つわりで飲めない人も多いのだそうだ。
妊娠を機に食生活を改善する人は多いが、貧血の改善に関しては「少なくとも妊娠の6カ月前には取り組み、妊娠時には貧血と隠れ貧血が改善できている状態を目指してほしい」と山本さんは呼びかける。
(※5)BMJ 2013; 346: f3443
この人に聞きました

(文 村山真由美、イラスト 平 拓哉)
[nikkei WOMAN Online 2018年10月18日付記事を再構成]